自動車担当アナリストは14年3月期の為替レートを1ドル=95円と設定し、連結営業利益は2兆500億円になると試算している。円安は、輸出の比率の高いメーカーにとってプラス要因だが、トヨタが最も恩恵を受ける。国内で生産した乗用車の半分以上を輸出しており、円安により採算が飛躍的に良くなるためだ。
為替が1ドル=100円近辺で定着すれば、さらに、利益の上振れは確実。リーマン・ショック前の08年3月期の過去最高益2兆2703億円を更新する可能性が出てくる。トヨタは1円の円安で年間の営業利益を、350億円程度押し上げる効果があるとしている。
トヨタの今期の決算の見通しは慎重だが、豊田章男社長は、営業利益が6年ぶりに2兆円規模になることを視野に入れている。
同時に発表した13年3月期の連結決算(米国基準)によると、売上高は前期比18.7%増の22兆642億円、営業利益は3.7倍の1兆3209億円、当期純利益は3.4倍の9622億円だった。
13年2月に公表した3月期の営業利益の予想は1兆1500億円だった。1~3月の想定為替レートを1ドル=84円とみていたが、実際には90円を超える円安水準で推移したため、利益を大幅に押し上げた。
営業利益は独フォルクスワーゲンの2012年12月期の115億1000万ユーロ(約1兆4735億円)にほぼ匹敵する。
実はクロウト筋は「国内事業が中心の単体決算の黒字転換は確実だが、どの程度、黒字になるか」に注目していた。単体決算の売上高は同18.4%増の9兆7560億円、営業利益は2421億円(前年は4398億円の赤字)、当期純利益は6978億円(前年は358億円の黒字)。営業利益は従来予想の200億円の赤字から黒字に転換した。単体決算の営業黒字化はリーマン・ショック直前の08年3月期以来5年ぶりのことだ。4300億円台の赤字だった前期に比べて、営業利益は6800億円強、上振れしたことになる。
リーマン・ショック以降、国内の過剰設備が重荷になっていたが、固定費の削減を進めた結果、損益分岐点が下がった。トヨタの首脳は、「円安にならなくても単体決算を黒字にできる力がついてきた。円安で黒字転換したと言わないでほしい」と語っていた。本音を言えば「超円高の時点で、きちんと黒字を出せるようにしたかった」のだろう。
海外を含め、原則3年間は新しい工場の建設を見送る方針を公表済みで、今後、コストが大幅に膨らむことはない。単体決算の14年3月期の営業利益は、前期の2.5倍の6000億円を見込んでいる。豊田章男社長は「リーマン・ショックのような世界的な危機が襲ってきても、きちんと利益をあげられる持続的な体制がようやく整った」と自信を深めている。「700万台でも黒字を維持できる体質になった」。
13年3月期のダイハツ工業と日野自動車を含めたトヨタグループの世界販売台数は過去最高の969万台となった。北米や東南アジアでの販売が好調で、欧州や中国での低迷を補った。14年3月期の世界販売台数は1010万台を計画。世界初の販売台数1000万台超えを狙う。
今後のトヨタの事業リスクは中国市場だ。12年の反日デモの影響から立ち直っていない。中国市場の新車販売台数は13年1~3月期が前年同期比12.7%の減少。4月は同6.5%減だった。減少幅は縮まっているが、依然、前年の水準には届かない。いつ反日デモ前の状態に回復するかは不透明だ。
トヨタの株価の終値は、決算発表当日の5月8日は80円高の5840円。一時、年初来の高値(5880円)をつけた。2007年の高値、8350円にはまだまだ距離があるが、連結営業利益2兆円台乗せが確実視されるようになれば、この水準に近づくことになるかもしれない。
(文=編集部)