レクサス初のEV(電気自動車)は、数値を超える完成度を秘めている。レクサス史に名を残すことになったのは「UX300e」だ。先進技術をブランドの柱とするレクサスが、時代の先陣を切るEVデビューモデルの栄誉を、コンパクトSUV(スポーツ用多目的車)である「UX」に与えたのだ。
これまでUXは、ハイブリッドと2リッターガソリンターボという2つのパワーユニットで展開してきた。そこに新たにEVモテルが加わったのだ。脱炭素化の世界的潮流のなか、レクサスもUX300eを旗印にカーボンニュートラルへと舵を切ったことになる。
UX300eに搭載されるパワーユニットは、少なくとも数値で言えば平均的なものとなる。総電力量54.4kWhのリチウムイオン電池を搭載、フロントタイヤを駆動させるモーターは最高出力150kW、最大トルク300Nmを発揮する。WLTCモードの航続可能距離は367km。近距離移動のシティコミューターとして考えれば十分すぎる性能であり、長距離ドライブを許容する。
フットワークに影響する機能に関して声高に叫ぶような新技術が投入されているわけではなく、基本性能を高めたにすぎない。ボディ剛性の引き上げやサスペンションのアジャストなど、決して軽くはないバッテリーを積むことへの対策を打っただけのように思える。
だが、その性能はスペックから想像するより、はるかに高い。実質的な航続可能距離は長く、走りは驚くほどパワフルだ。ハンドリングも秀逸である。これまでの、どこか控えめだったUXのイメージを一気に覆すほどの完成度に驚かされた。
たとえば、WLTCモードの航続可能距離367kmも、回生性能が驚くほど高いようで、実質的な航続走行距離との乖離が少ない。普通充電でも急速充電でも、電気の吸収力が高い。サービスエリアに設置されている急速充電の50kWでも、平均して100Aでの充填を許容するのだ。一回の充電で一気に足が伸びるのである。
パワーフィールも強烈で、アクセルペダルの初期から一気にトルクが溢れ出す。並みのEVを完全に置き去りにする加速力を見舞うのである。それでいて、速度が上昇しても加速が鈍化しない。EVの悪癖のひとつである伸びの悪さが抑えられている。内燃機関のように、といったら大袈裟だが、高負荷高回転域でも頭打ちにならずに済む。エモーショナルな感覚に満ち溢れているのだ。
ハンドリングもシャープである。微小舵角から素直に反応する。さすがに強いロールを伴うようなコーナリングは苦手だが、肩の力を抜いたテンポならばワインディングドライブも心地いい。
そう、通勤通学にとどめていくようなシティコミューターではまったくなく、遠距離ドライブもこなすし、山坂道に差し掛かってもストレスを感じることのない走行性能を備えているのだ。パワーユニットの熟成やボディ剛性の引き上げといった、言葉にすれば平易な技術も、そのレベルが際立っていることの証明であろう。
レクサス初のEVは、控えめながら驚くほど完成度が高く感じた。UX300eの素晴らしさに驚かされた今、さらに注意深くレクサスの今後の施策を観察する価値があると思える。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)