現在、国産・輸入車を問わず、クルマはSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)と呼ばれるカテゴリーが大人気となっている。2021年1月の新車登録台数(軽、及び海外ブランド除く)を見ても、1位のトヨタヤリスはSUVのヤリスクロスを含んだ数字であるし、4位にトヨタハリアー、7位にトヨタライズ、15位に日産キックス、17位にトヨタRAV4、18位にトヨタランドクルーザーと、SUVがベスト20に6台もランクインしている。
またトヨタは、最も大きなサイズのランドクルーザーから最小のライズ、そしてピックアップトラックのハイラックスまでSUV系が8車種もラインアップし、ミニバンを持たないマツダも5車種と、さまざまな国産メーカーからSUVカテゴリーで豊富な車種が販売され、均衡が保たれているわけだ。
SUVがこれだけ盛り上がっていれば、逆にユーザーを奪われたボディタイプもある。ファミリーカーとして定着したミニバンからもユーザーは流れているが、最もユーザーが流出したカテゴリーといえば、やはりステーションワゴンだろう。
一時は各メーカーから販売されていたステーションワゴンも、現在はトヨタカローラツーリング、プリウスα/ダイハツメビウス(もうすぐ生産終了)、ホンダシャトル、マツダ6ワゴン、スバルレヴォーグと、OEM車を含めても6車種しかない。しかしそのなかで、2020年にフルモデルチェンジを行い、日本カー・オブ・ザ・イヤーのイヤーカーに輝いたスバルレヴォーグは、新車販売台数で14位、対前年比660.8%という爆発的ヒットとなっている。
そこで今回は、先代と“キャラ変”したレヴォーグを素材に、ステーションワゴンの今後のブーム再到来を占ってみよう。
スバルレガシィは、セダンをベースとした高い走行性能と積載性能とでステーションワゴンブームを到来させた
日本では商用車ベースのライトバンが主流だった1989年、スバルレガシィの登場でステーションワゴンブームが到来する。セダンをベースとした高い走行性能と積載性能を兼ね備え、当時のRVブームを、クロカン4WDと共に支えた。ライトバンとの違いは、贅沢なサスペンション形式による走行安定性の高さと乗り心地の良さで、まさに欧州のステーションワゴン文化を日本に導入したのがスバルレガシィだったのだ。
「打倒レガシィ」を期して各メーカーはステーションワゴンを導入していく。レガシィ最大のライバルとなったのが、トヨタカルディナや日産アベニール、ホンダアコードワゴン。しかし、ハイパワーエンジンを搭載し、高い走行性能を実現したレガシィの前に撤退を余儀なくされ、レガシィ一強時代が続く。政治でもクルマでも、“一強”というのはメリットもあるが、当然デメリットも存在する。「レガシィを選べば間違いなし!」となる一方で、ユーザーの選択肢が少ないというのがデメリットだった。そうした流れのなかで、ステーションワゴンブームはやがて衰退し、SUVへと人気が移行していったわけだ。
ステーションワゴンを購入する人は、初代レヴォーグに搭載されていた「速さのための成功性能」など求めてはいなかった
その一強のレガシィも、スバルという会社の規模を考えると、主力マーケットである北米基準を見据えたクルマ作りが行われ、ボディサイズがどんどんと拡大していき、従来の高い走行性能に陰りが見え始めた。そこで2014年に登場したのが、初代レヴォーグだ。日本の道路事情に合わせたボディサイズを採用し、ターボエンジンによる高い走行性能。そして、スバル独自の運転支援システム「アイサイト」による高い安全性能を両立した新世代ツアラーとして登場したのだ。
しかし、スポーティさを前面に押し出した初代レヴォーグは、初代レガシィのようなムーブメントは起こせなかった。その理由は、販売数の構成比を見れば一目瞭然。最高出力300psを発生する2Lターボエンジンを搭載した速いモデルは全販売数の3割にも届かず、売れるのはレギュラーガソリン仕様の1.6Lターボばかり。つまり、ステーションワゴンを購入する人の多くは、速さなどを求めてはいなかったということだ。実はここに、国産ステーションワゴンと輸入車のそれとの違いがある。
メルセデス・ベンツやボルボといったステーションワゴンに定評のある輸入車ブランドにも、確かにハイパワーエンジンを搭載したモデルも用意されている。しかし販売で主力となるのは、ディーゼルエンジン搭載車や燃費性能に優れたハイブリッド車。これは、SUVに比べてステーションワゴンは重心が低いため走行時の揺れが少なく乗り心地がよいうえ、疲れにくいからだ。これは、ヨーロッパの人が長いバケーションにたくさんの荷物を積み込み、ロングドライブをして避暑地に向かうというカルチャーがあるからだろう。
ところがレガシィをはじめとした国産ステーションワゴンは高い走行性能を追求し、ステーションワゴンに本来求められている、ロングドライブでも疲れにくいおおらかな乗り味というものを忘れてしまったのである。ここに、国産ステーションワゴンが廃れてしまった大きな要因があるといえるだろう。
「アイサイトX」の性能はピカイチで、ロングドライブ時のドライバーの負担を軽減
しかし、2020年の「一番イイクルマ」に輝いた2代目スバルレヴォーグは、初代から見事に“キャラ変”し、おおらかな乗り味で、ロングドライブでも疲れにくいクルマへと仕上げられた。クルマの基礎となるプラットフォームから一新し、ドライバーの思い通りに動く操縦性と、低重心を活かしたフラットな乗り味とが、絶妙なバランスで両立している。搭載される1.8Lターボエンジンも、最高出力177ps、最大トルク300Nmと、現代の基準でいえば数値的には目立つものではない。しかし、非常に扱いやすく、しかも誰が運転しても心地良いフィーリングを実現。そして極めつけはやはり、スバルの運転支援システム「アイサイト」だろう。
新型レヴォーグは、通信衛星とつながってクルマをコントロールする「アイサイトX」を搭載。料金所やカーブでの減速機能に加えて、高速道路での渋滞時にはハンズオフによる運転も可能で、ロングドライブ時のドライバーの負担軽減を可能としている。
スポーティなステーワゴンである初代から、安心・安全を前面に押し出した万能ツアラーへと見事“キャラ変”したレヴォーグ。これは、SUVに食傷気味のユーザーの受け皿となることは間違いないだろう。低重心が生み出すフラットな乗り心地は、リアシートに乗るお子さんやペットにも優しいはず。
ただし唯一の欠点は、2020年に登場したフレッシュなモデルであるにもかかわらず、パワートレインの電動化技術が見えなかったこと。搭載されている1.8Lターボエンジンは、街乗り中心でリッター当たり約10.9kmというビミョーな燃費性能。未来を見据えたパワートレインを期待したいところである。
(文=萩原文博/自動車ライター)