脱ガソリン車の流れが加速している。イギリスとフランスが2040年までにガソリン車の販売を禁止する方針を打ち出した。その背景には、両国が二酸化炭素(CO2)の排出削減などの環境問題をリードしようとする意味合いが強い。
CO2削減は世界各国の共通課題と認識されるようになった。大気汚染の問題児とも目されてきた中国も、CO2削減に取り組むようになり、脱ガソリン車が加速している。
しかし、それは一面的な見方にすぎない。脱ガソリン車からEVへという世界的な潮流が強まりつつあるものの、環境問題に取り組む専門家たちからはEVに懐疑的な意見も存在するのだ。
EVの弱点は充電にある。1回の充電で走行できる距離が短く、充電にも時間がかかる。そのため常に充電しておかなければならず、「乗りたいときに、すぐ乗れる」という自動車ではないので使い勝手は悪い。
今年9月に発表された日産自動車の2代目「リーフ」は、航続距離がフル充電の状態で約400キロメートルとなり使い勝手は向上した。それでもフル充電までに要する時間は、約1時間と長い。また、EVは何年も乗っていると電池が劣化する。電池が劣化すれば、航続距離はますます短くなる。
そうした事情から、EVは「チョイ乗り」のための自家用車や都心部のタクシーには十分だが、長距離を走るバスやトラックなどには不向きとされる。バス業界関係者からも「バスやトラックでもEVは登場しているが、航続距離に不安があり、広く普及しないのではないか」と疑問視する声は根強い。
EVに供給される電力にも目配せ
一方、ヨーロッパやアメリカではバスやトラックで天然ガスを燃料とする天然ガス車(NGV)を導入するケースが目立つ。実際、スペイン・バルセロナやアメリカ・ロサンゼルスでは公営バス全車をNGVに切り替えた都市もある。
NGVに注目が集まるのは、電力事情なども大きく起因している。現在、パリ協定に基づき、世界各国はCO2の削減に邁進している。EVはガソリンを使わないエコカーといわれるが、いくら環境を意識してガソリン車からEVに転換を図っても、そのEVに供給される電力がCO2を大量に排出する方法で生産されていては意味がない。
「EVは電気をエネルギーにしているのでエコカーといわれますが、その電気がどのようにつくられているのかまで目配りしなければなりません」
こう言うのは環境省の職員だ。日本では東京電力福島第一原発事故を契機として原発への不信感が高まった。そのため大手電力会社は原発を諦め、原料コストが安く、安定供給できる石炭火力に傾斜する動きを強めている。
しかし、石炭火力は「CO2の排出量が多く、ヨーロッパや中国・インドでは廃止や新設計画の撤回が相次いでいる」(同)といわれるほど、時代遅れになっている。現在、電気は十分に足りているが、「ガソリン車がEVに切り替わったら、電力が不足してしまう可能性もある」(環境省職員)。
だからといって、原発の再稼働や新設・増設は同意を得られにくい。石炭火力もCO2を増やしてしまうため、環境省や経済産業省も推進はできない。そうした事情を考慮すると、EVを一気に推進することは難しい。そうした事情は、ヨーロッパや中国・インドでも同じだ。そのため、前述したように欧米ではNGVがトラックやバスといった商用分野で活躍しているのだ。
FCVへの期待高まる
一方、日本では高圧ガスボンベの規制によってNGVが普及していないため、燃料電池車(FCV)が注目されている。FCVは燃料となる水素から電気を取り出し、その電気を燃料にして走る自動車のことをいう。その仕組みを見れば、FCVはEVよりも手間がひとつ多い。そのため、EVは利便性が高く見られがちだが、実際にはFCVのほうが利便性は高い。
なぜなら、FCVは搭載されている蓄電池に電気をため、そこから電気を取り出すこともできるからだ。通常時は自動車の動力として電気を使い、災害時には蓄電池にためた電気をバックアップ電源として利用する。そんな使い方が期待されており、関係者から「FCVは動く発電所」とも呼ばれる。
東京都交通局では、すでにトヨタ製の燃料電池バスを2台導入している。東京都交通局のFCVはトヨタ製で、トヨタはMIRAIというFCVも発売している。そのため、FCVというとトヨタのイメージは強いが、ホンダでもクラリティというFCVを発売している。さらに、日産は水素を使わないFCVの開発にも着手している。
EVよりもFCVが優位だとされる理由が、ほかにもある。シェールガスを精製する過程で水素エネルギーを取り出すこともできるという点だ。関係者が「EVよりも燃料効率のいいFCVの量産化を進めるべきだ」と指摘する理由もそこにある。
ヨーロッパや中国などのメーカーに比べると、日本の自動車メーカーはEV開発で出遅れているといわれる。しかし、EVブームは今回で4度目であり、直近では08年頃にも起きているが、そのときも日本メーカーの優位は揺らがなかった。
EVは、NGVやFCVの露払いを務めるだけで終わる――そんな見方も強まっている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)