岐路に立つ自動車“産業”、崩壊の危機感抱くメーカー…東京モーターショーから考える
11月23日、東京モーターショーが開幕した(〜12月1日)。世界12カ国から178社が参加し、35ブランドが出展。中でも国内自動車メーカー各社は、エコと走行性能を両立した次世代車を相次いで公開し、その様子を各メディアが伝えている。
11月20日付日本経済新聞によると、世界初公開の車両は76台。2年前の前回に比べて約4割増えたという。日産自動車が出展したのは、3人乗り電気自動車(EV)のコンセプト車「ブレイドグライダー」。三角翼でグライダーをイメージしたスポーツタイプの次世代EVで、カルロス・ゴーン社長は「EVの新たな可能性を開く」と自信をのぞかせた。
トヨタ自動車は、2015年に市販予定の水素を燃料に走る燃料電池車「FCVコンセプト」を披露。豊田章男社長は「自動車産業は間違いなく成長産業だ。クルマをより環境によく、より安全に変えていきたい」と語ったが、“若者のクルマ離れ”の影響もあってか、ここ数年、新車の販売台数は減少傾向にある。
11月21日付朝日新聞によると、90年に778万台だった新車の販売は、12年には536万台に減少。日本自動車工業会が08年に行った調査では、大学生の自動車への関心は、パソコンやケータイなどの通信機器よりも大きく下回り、自動車業界にとって“若者のクルマ離れ”は深刻な問題となっている。
国内の市場が縮小を続けるからといって、海外向けの生産で補うことも難しい。輸送費がかさみ円高の影響を受けやすい自動車は、「売れる場所でつくる」のが基本だからだ。ゆえに生産の海外シフトが進んでいるという。
国内で自動車関連の職業に従事するのは約550万人で、労働者の8.8%を占めている。ある部品メーカーの幹部は同紙記事で「これ以上、国内生産が減れば、産業として成り立たなくなるのではないか」と話している。今後、国内の市場がさらに縮小すれば、クルマづくりを“日本を代表する産業”といえなくなる日が訪れるかもしれない。
●存在意義問われる東京モーターショー
それを裏付けるかのように、東京モーターショーの入場者数も、91年の200万人超をピークに減少傾向にあると、前出の日経新聞が伝えている。さらに、ゼネラル・モーターズ(GM)など、米ビッグ3は3回連続で参加せず、世界の自動車ショーでも存在感の低下が懸念されているという。
自動車評論家の国沢光宏氏も自身のブログ(11月20日付)で、今回の東京モーターショーについて「前回より賑やかになったけれど『夢』を感じない」と語り、日本の自動車産業に陰りを感じているようだ。また、国沢氏は「『若い人向けのクルマ』みたいな共通テーマを与え、それに対するコンセプトカーで出す、なんてことをしたらいいのに」とも提案している。
それに応えるように、90年代以降に生まれた若年層をターゲットにしたコンセプトカー「IDx」を東京モーターショーで初披露したのが、日産自動車だ。東洋経済ONLINEの11月21日配信記事によると、日産はIDxの開発にあたって、初期段階からユーザーとコミュニケーションして意見を取り入れる、「コ・クリエーション」という開発手法を用いたという。数十人の若者たちの意見を取り入れて開発されたIDxは、カジュアルスタイルの「IDx フリーフロー」と、ビデオゲームに登場するようなスポーツカータイプの「IDx ニスモ」。いずれもエンジンはEVではなく、ガソリンエンジンだ。日産担当者はIDxの仕上がりを「ピュアなクルマ感、本物の持つ価値観が若者にも響いたのでは」と評価している。
また、このプロジェクトを担当したデザイナーの田井悟ディレクターは、11月21日付朝日新聞記事で「速い車、低い車なら、わーっと反響があるという時代は終わった」「だからと言って、この車が売れるというわけではないと思う」と、今の自動車産業の在り方の難しさを語っている。日本メーカーが生き残るための答えにたどり着くには、まだしばらく時間がかかりそうだ。
(文=blueprint)