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垣田達哉「もうダマされない」(5月27日)

肉の生食は死の危険!ハンバーグや焼き肉、ホルモンのレア焼きなど危険で愚の骨頂

文=垣田達哉/消費者問題研究所代表
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肉の生食は死の危険!ハンバーグや焼き肉、ホルモンのレア焼きなど危険で愚の骨頂の画像1「Thinkstock」より

 厚生労働省は、6月中にも生食用牛の肝臓(レバー)に続いて、生食用豚肉と内臓の販売・提供も禁止する予定だ。

 4月28日に意見公募が締め切られた厚労省のパブリックコメントの内容は、「豚の食肉および内臓を飲食店では生食用として提供してはいけない。小売店では中心部まで十分な加熱を要する等の必要な情報を消費者に提供しなければならないという基準を作る」というものだ。

 筆者は、この基準を作ることについて賛成である。生食用牛の肝臓(牛のレバ刺し)が、提供・販売禁止になったきっかけは、2011年に起きた「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件だ。富山県、福井県、横浜市で患者数181人、死亡者5人。死亡者には6歳の男児が2人含まれていた。

 この事件を聞いたとき筆者は、「6歳の子どもに生肉を食べさせる時代になったのか」と驚いた。生肉の危険性を知らない親が増えてきたことに愕然とした。

 しばらくしてから、牛のレバ刺しを法律で禁止するという話が出た時、複数のマスコミから、その是非について筆者は取材を受けた。どのマスコミにも「法律で規制するしか仕方がない。今は、法律で規制されたものはダメで、規制されていないものはOKと考えている人が多いようだ。そのために子どもが犠牲になるのは耐え難い」と答えた。

 それが今、現実のものになってきた。牛のレバ刺しが提供できないから、豚のレバ刺しを提供する店が増え、それを平気で食べる人が増えてきたのだ。命知らずと言っても過言ではない。生の豚肉や内臓は、食中毒の危険もさることながら、E型肝炎に感染する危険性もある。E型肝炎に感染すると死に至ることもある。だから、牛の場合は「肝臓だけが生食の提供・販売を禁止」したが、豚は「肉と内臓すべての生食用の提供・販売が禁止」されようとしている。

 厚労省も、豚肉や豚の内臓を食べる習慣など日本にはなかったので、あえて規制する必要はないと考えていたが、これ以上豚肉や内臓の生食が広がると犠牲者が出る危険性があるとして、規制する方針を固めたのだ。

 今回、鶏肉は「重篤になるケースがほとんどない」ということで規制は見送られたが、鶏肉と鶏肝臓の生食も食中毒のリスクは大きい。

自己責任を棚上げし、国に依存する消費者

 牛のレバ刺しも同様だが、犠牲者が出る前に規制するのは日本では珍しいことだ。「犠牲者が出ていないのに規制するのは、やりすぎだ」という批判もあるが、犠牲者が出てからでは遅い。

 日本人の中には「自分に限っては、自分の家族に限ってはない」という根拠のない自信を持っている人がいる。「食にゼロリスクはない」「危険を承知で食べるのは自己責任だ」「日本の生食文化の崩壊だ」という声もあるが、それほど日本の消費者は賢くないし、謙虚でもない。

 11年の東日本大震災以降、行政の「想定外でした」という言い訳は通用しなくなった。ましてや、食の危険を知りながら放置するなど許されることではない。食だけでなく、何か事件事故が起きた時に「自己責任だ」という声より「国は何をしていたのか」という声のほうが強い。

「生食文化の崩壊」などとは、まさにお門違いだ。日本に肉の生食文化など根づいていない。野菜や魚、卵などは、日本の生食文化といえるが、肉や内臓を生で食べ始めたのは最近のことだ。もちろんまったくなかったというつもりはないが、肉や内臓の生食は、日本の食文化といえるほどのものではない。

 ただし、筆者が一番気にしているのは、そこではない。問題は「ゼロリスクではない」ということをわかっていない消費者が多いことと、どんなリスクがあるのかを知らない消費者が多いことだ。

「飲食店で提供されるものに、危険なものはない」「市場に流通しているものは、国が安全だと認めたものばかりだ」と勘違いしている消費者がいる。

 実は、食というのは昔から「自己責任で食べるもの」なのだ。国が定めている基準は、どんなものでも、あくまで安全の目安にしかすぎない。「国の基準を守っているものは、すべて安全だ」という保証はない。

 消費期限や賞味期限がその代表的な基準だ。ところが、リスクが何かを知らない消費者は、すべてを国の基準に依存してしまう。期限内のものは食べても安全だが、期限を過ぎたものは食べられないと思っている人も意外と多い。

 もちろん、かくいう筆者もすべての食のリスクを知っているわけではないので、国の基準に依存することは多い。多少は自己責任で食べていると思っているが「レバー(肝臓)は、表面だけでなく内部も大腸菌で汚染されている」ということは、牛のレバ刺しが禁止されたことで初めて知った。

 食肉や内臓が大腸菌で汚染されているのは、一般的には表面だ。ステーキは、両面を焼く(加熱する)ので、だいたい大腸菌は死滅する。だから、ユッケは表面を加熱し、加熱した部分を取り除いて提供されている。

 メニュー表示偽装でクローズアップされた牛脂入りなどの成型肉は、成型方法はさまざまにあるが、いずれの方法でも大腸菌が肉の中に入り込むことがあるので、食中毒が以前からたびたび起きている。

リスク啓蒙の手段としての規制

 実は、こうした情報がマスコミ、特にテレビでは、ほとんど報道されないのだ。テレビは基本的に、事業者に不利になる情報は流さない。事件や事故があった時だけ、集中的に短期間に報道する。何もない時にリスクについて情報提供することはほとんどない。

 今は情報過多の時代なので、食の危険についての情報は消費者庁、厚労省、食品安全委員会、地方自治体などのホームページからでも簡単に入手できる。

 ところが、これだけ簡単に情報が入手できる時代なのに、多くの消費者は、食の危険情報など手に入れようとしない。食に限ったことではないが、嫌なこと厄介なことは「知ろうとしないというより、知りたくない」のだ。できるだけ避けたい。そういった問題は「他人に任せたい」という意識が強い。

 その任せる他人が国なのだ。国が信頼できるというより、国を信頼したい、言い方を変えれば、それが一番楽だからだ。自分や家族に危険が及ぶことはないと思っているので、「何かあったら、国の責任にすればよい」ということになる。

 そういう時代だからこそ、国は規制することでリスクを周知するしかない。規制をすることで、多少なりともマスコミは報道してくれる。地方自治体も、啓蒙用のパンフレットなどを作ることができる。それは、消費者に周知、啓蒙するだけではなく、行政組織や業界、事業者への周知でもあり、啓蒙でもある。消費者以上に、食のリスクを知らない事業者や行政が多いのだ。

 マスコミも事業者も、食については「おいしいと思われるもの」と「珍しいもの」ばかりを追いかける。消費者のニーズがそうなっているのだから仕方がないが、それが食のリスクを忘れさせることにもなっている。そして極め付きは、レポーターやコメントする人の褒め言葉が、ほとんど決まっていることだ。

 加熱したエビの褒め言葉は「プリプリ」だ。おいしさの基準など、人によって違うはずなのに、とにかく、おいしいものの表現を決めたがるのがマスコミだ。

 肉や内臓を生食するようになった原因の一端もそこにある。肉を食べた時の褒め言葉は、とにかく「柔らかい」である。「口の中に入れたら、とろけてしまった」「かまなくてもいい」など、表現は多少違っても、言っていることは「柔らかい=おいしい」ということだ。そうした風潮が、あまりにも強いので「肉は柔らかくなくてはいけない」という思いが強くなり、行き着いた先が生食である。

ハンバーグも生焼けを禁止する規制が必要?

 成型肉の典型的なものがひき肉だ。そのひき肉を材料とする代表的な料理が、ハンバーグだ。肉の塊がひき肉にされるのだから、表面に付着していた大腸菌などの食中毒菌は、ひき肉のどこに入っているかわからない。ハンバーグは中まで十分加熱しなければ、食中毒リスクが高くなる。したがって筆者が自宅で作るときは、爪楊枝などを刺して出てきた肉汁が透明になるまで焼くようにしている。子どもに食べさせる機会も多いハンバーグだ。食中毒予防のためにも、加熱は十分にする必要がある。

 国は、成型肉などには「十分加熱する」という表示を義務付けているが、ハンバーグなどのひき肉については、消費者は「百も承知のはずだから」ということで、表示義務の対象から外している。

 ところが、テレビで見かけたのだが、「ハンバーグのレアがグルメだ」といって、焼いたハンバーグを半分に切って、中まで火が通っていなくて赤くなっていることを自慢している飲食店を紹介していた。店もさることながら、それを紹介するテレビ番組も問題だ。

 こうなってくると、ひき肉にも「十分加熱するように」という表示を義務付けなければならなくなるし、「ハンバーグの生焼け提供禁止」という規制も作らないといけなくなるかもしれない。

子どもに生肉は危険

 もう一つの大きな要因は時代だ。今は、焼き肉店や居酒屋などに、小さい子どもを連れていくことが珍しくない。子どもを飲食店に連れていけば、親と同じものを食べたがる。生の肉や内臓を食べている親を見て、「自分も欲しい」とねだるだろう。それを拒否できる親は少ない。拒否できない親は、焼き肉店や居酒屋などに子どもを連れて行かないか、生肉を子どもの前では食べないようにすべきだ。

 焼き肉店での食中毒は、後を絶たない。今年3月に北海道の焼き肉店で起きた食中毒事件では、バイキング形式で肉などを食べた14人が食中毒症状を起こした。そのうちの1人、中学3年生の女子生徒は、その後、亡くなっている。

 因果関係ははっきりしていないが、一般的に食中毒は、体力のない子どもや高齢者が重篤になるケースが多いとされていた。ところが、「焼肉酒家えびす」の食中毒事件では、14歳の中学生男子と40代の女性も亡くなっている。若いから、高齢者ではないからといって油断はできない。

 焼き肉店で、数人とテーブルを囲んで食べる場合、「ゆっくり焼いていると、他の人に取られてしまう」「ちょっとだけ火を通したほうが、柔らかくておいしい」などと、十分焼かないで食べる人も多い。生肉はもちろん、生焼けの状態の肉や内臓もリスクは高い。

 ホルモンも内臓だ。生焼けでは絶対に食べるべきではない。ホルモンは、牛だけでなく豚も多く出回っている。豚の内臓は牛よりも食中毒のリスクが高い。どんな食にもリスクはある。食肉や内臓だけでなく、どんな食べ物でも、食べ方が一番の問題なのだ。特に子どもに食べさせる際には神経を使うべきだ。

 筆者は、規制が多くなることを歓迎はしない。自由度が制約されることも嫌いだ。しかし、今の時代は、良いことや耳触りのいい情報しか提供されなくなっている。そうなれば、リスクを知らせる方法は規制しかない。

「見ざる、言わざる、聞かざる」の時代にあって、重要な情報に耳を傾けさせるのは容易なことではない。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應義塾大学商学部卒業。食品問題のプロフェッショナル。放射能汚染、中国食品、O157、鳥インフルエンザ問題などの食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで活躍する。『ビートたけしのTVタックル』『世界一受けたい授業』『クローズアップ現代』など、テレビでもおなじみの食の安全の探求者。新刊『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)、『選ぶならこっち!』(WAVE出版)、『買ってはいけない4~7』(金曜日)など著書多数。

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