小さいモーターのパワー
世界初の量産型燃料電池車であるトヨタ自動車のMIRAI(ミライ)の車重は1850kgで、モーターの最高出力は113kW(154馬力)である。車重に比べてパワーが小さい。ちなみに電気自動車の日産自動車・リーフは車重1460kgで80kW(109馬力)、BMW・i3は同1260kgで125kW(170馬力)、米国の最高級電気自動車のテスラ・モデルSは、ミライとほぼ同じ車重で515kW(700馬力)である。
エンジン車では、独ダイムラーの高級ブランドであるメルセデス・ベンツのE400はミライとほぼ同じ車重だが、最高出力は245kW(333馬力)である。ミライの倍以上の出力だ。
エンジン車や、同じモーターで駆動する電気自動車と比べても、ミライのパワーは小さい。なぜだろうか。
一般的にモーターはエンジン(内燃機関)に比べて小さくて高出力である。しかし、パワーがエンジンの大きさ(排気量)でほぼ決まるのに対して、モーターは、その大きさや重さではなく、モーターにエネルギーを送る電池の性能によって決まる部分が大きい。いくら大きなモーターを載せても、電池の性能が低ければ思ったパワーは出ない。ここがポイントだ。
燃料電池はパワーアップが技術の要
燃料電池車の電池に当たるのが燃料電池(スタック)だ。スタックは、内部で水素と空気中の酸素から電気を作る。一種の水素発電機である。モーターはこの出力を上回ることはできない。
世界で最初にスタックを積極的に次世代車用に開発したのは、メルセデス・ベンツであった。しかし、1994年に発表した試作1号機、NECAR1のスタックの最高出力は50kWにすぎなかった。70kWまで向上したのは、それから5年後の99年のことだ。
それから考えれば、ミライの114kWというスタックの最高出力(モーターは113kW)は、実はたいしたものなのである。ちなみに、本田技研工業・FCXクラリティのスタックの最高出力は100kWだ。
94年の50kWから2014年の114kWまで、出力をほぼ2倍にするのに20年の歳月が必要だったことになる。それほどにスタックの出力向上には、長い年月と膨大な開発資金が必要なのである。