テンプスタッフは正社員の5割強が女性。このうち過去3年間のうちに育児休暇を取得した女性社員は18%。育児中の女性社員は周囲より早い時間に帰ることに申し訳なさを感じ、管理職を辞退したり、自分で仕事の範囲を限定する人も少なくなかったという。
そこで、時間に制約のある女性社員だけで構成する、残業ゼロの営業部隊を設置した。営業部長も女性のため、新たな管理職の評価制度を導入する。
女性活用のカギは営業職にあり
1973年に現会長の篠原欣子氏がテンプスタッフを創業した当時、社員は全員女性だった。80~90年代、事業拡大のためにモーレツ営業で鍛えられたリクルート出身の社員を採用して業容の拡大を図った。営業重視のリクルート出身の男性社員と、スタッフ重視の生え抜きの女性社員が対立することもしばしばあったという。
98年1月、創業以来最大の不祥事に見舞われた。テンプスタッフに登録している全国の女性9万人の個人情報が「容姿ランク付き」でインターネット上に流出した。システム開発に関係していた外注業者が持ち出していたのだ。
物議を醸したのが容姿ランク付きという点で、「営業重視、極まれり」と批判された。この事件を受け、原点に戻って女性の登録スタッフに対して丁寧なケアをすることになった。
だが同社に限らず営業の世界では、一部業種を除き女性は少数派だ。
一般社団法人営業部女子課の会代表理事の太田彩子氏は、職場で孤立しがちな営業女子のネットワークづくりに取り組む。太田氏は早稲田大学法学部在学中に長男を出産。リクルートで営業担当だったときには、成績トップで3度の社内表彰を受けた経歴の持ち主だ。太田氏は、女性の営業が増えない理由をこう分析する。
(1)顧客優先となるため、長時間労働になりがちで、家庭との両立が難しい。
(2)体力勝負、根性論、酒を介した接待など、男性的な働き方が重視されてきた。
(3)会社や組織が「女性に営業は向かない」と思い込み、育てようとしてこなかった。
(4)出産や育児で営業を離れてしまうことが多く、30代以上の先輩の女性社員や女性管理職が少ない。若いうちから管理職を目指す意識も育たない。
女性の活躍が進んでいないのが営業職の現実だ。営業職で女性ががんばらないと、ダイバーシティは言葉だけで終わってしまうとの懸念から、テンプスタッフは営業女性を支援するために子育て中など時間的制約のある女性だけの営業部隊をつくった。
M&A効果で増収増益
業績好調なことが、ダイバーシティ営業部誕生の背中を押した。08年のリーマンショック、11年の東日本大震災、12年の派遣法改正による規制強化と逆風が続いたが、13年頃からの景気回復によって、急速に人材の不足感が出てきた。
テンプHDは、13年に人材紹介会社のインテリジェンスHDを買収し、主力の人材派遣のほかに紹介・採用広告なども手がける総合人材サービス会社になった。
15年3月期の連結決算は、雇用環境の改善を背景に、派遣、転職支援などの事業が好調で、売上高は前期比10.6%増の4010億円、営業利益は26.2%増の234億円、当期利益は36.2%増の134億円だった。
テンプHDは今年3月末、パナソニックの人材派遣会社パナソニックエクセルスタッフを169億円で買収。6月にはジャスダック上場の販売支援会社P&P HDをTOB(株式公開買い付け)により買収した。取得額は55億円の見込みだ。
16年3月期の売上高は、前期比24.7%増の5000億円と過去最高を望み、営業利益は10.8%増の260億円と5期連続の最高益を更新する見込みだ。パナソニックとP&Pの買収が寄与すると考えられる。
5月12日、労働者派遣法改正に関し、国会で審議が始まった。これは人材派遣業界にとって追い風になると期待されている。改正案では、現在最長3年とされている派遣労働者受け入れ期間の上限が撤廃される。派遣先の企業は、派遣労働者を3年ごとに替えれば、派遣労働者を活用し続けられる。反対に、労働側からの反発は極めて強く、同様の改正案は過去2度廃案になっている。労働者派遣法改正は、人材派遣業界のみならず広く労働環境に影響を与えるため、今国会で法案が成立するか否かに注目が集まっている。
(文=編集部)