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高橋潤一郎「電機業界の深層から学ぶビジネス戦略」

連続大幅増収の大躍進企業、なぜ赤字?財務状況急激悪化、好調持続を必死にアピール

文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役

 2014年3月期の5割増収に続き、15年3月期も8割増収と続伸したが、なんとその増収を支えた取引先の倒産で赤字に転落した会社がある。

 ある電子部品商社の14年3月期業績は、売上高が対前期比46.1%増の1298億円と大幅増を達成、営業利益は同58.1%増の19億9900万円、最終の当期純利益は同43.9%増15億1700万円となっていた。さらに、この時点での次期、すなわち15年3月期予想は、売上高が77.2%増の2300億円、営業利益はほぼ倍増39億円、当期利益も9割増の29億円としていた。まさに「躍進」と言ってはばかることない数字であり、年間売上高2300億円となれば、上場の電子部品商社の中でもトップ10に食い込む業績だ。

 そして実際に15年3月期売上高は前期比81.2%増の2352億円を達成したものの、実に78億円の最終赤字となった。いくら増収となっても赤字では、トップ10入りもあだばなである。

 この会社は、東京都港区に本社を置く東証1部上場の電子部品商社エクセルである。

エクセル赤字転落の理由

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 なぜこんな不可思議な決算になったのか。理由は簡単である。業績拡大を支えていた販売先で、台湾のタッチパネル大手、勝華科技(ウィンテック)が倒産したからである。ウィンテックへの販売増で売り上げは急拡大したが、同社の倒産によってその売掛債権が焦げ付き、この未回収債権を特別損失として計上したため、大幅赤字に転落したという構図である。

 ウィンテックは、米アップルや中国通信機器大手の小米科技(シャオミ)などをクライアントに抱えていたが、Windows 8をはじめとするPCの売り上げの伸び悩みや、スマートフォン(スマホ)の価格競争激化などから採算が維持できない状況が続いていた。そして14年10月13日付で台中地方法院(現地の地方裁判所)に会社更生法および財産の保全手続きを申請した。エクセルは、これによりウィンテックに対する未回収売掛債権、総額1億2900万USドル(135億4500万円、年間平均レート105円換算)を貸倒損失引当金として特別損失に計上している。

好調持続をアピールするが、財務内容は低下

 それでもエクセルは、スマホやタブレット市場の拡大を背景に「電子部品や液晶モジュール販売は好調を持続する」とウィンテック倒産の影響を否定しているが、大きくつまずいたことに変わりはない。

 事実、14年3月期には42.6%だった自己資本比率は、15年3月期には一気に19.3%にまで下がった。また1年前に383億円だった負債合計は870億円にまで急拡大、その中身も短期借入金が115億円から441億円に膨らんでいる。エクセルは強気の業績予想を示しているが、財務状況の悪化は否めない。

 ちなみに、弊社クリアリーフ総研が集計した大手専門電子部品商社全体の15年3月期業績の累計合算は、対前期比5%の増収だったが、当期利益は13%の減益となっている。実際には多くの会社が2ケタ増益だったが、エクセルの赤字転落と大手数社の減益が足を引っ張ったかたちだ。多くの好調企業の中で、数社が業績悪化に苦しむ構図になっている。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)

高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役

高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役

業界紙記者を経て2004年に電機業界の情報配信会社、クリアリーフ総研を創業。
雑誌などへの連載も。著書に『エレクトロニクス業界の動向とカラクリがよ~く
わかる本』(秀和システム)、『東芝』(出版文化社、共著)ほか
クリアリーフ総研

Twitter:@clearleafsoken

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