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有馬賢治「日本を読み解くマーケティング・パースペクティブ」

鳥貴族、出口なき長期不振の原因は「タッチパネル式注文」の導入?

解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季
鳥貴族、出口なき長期不振の原因は「タッチパネル式注文」の導入?の画像1
鳥貴族の店舗(「Wikipedia」より/Asanagi)

 材料費や人件費の問題で、これまでリーズナブルさで顧客を獲得してきた外食チェーンが値上げに踏み切る、というニュースは最近よく耳にする。しかし、それによって顧客を失う結果を招いてしまうのは、運営会社としては頭の痛いところ。

 2017年10月に、それまでの「全品280円」を「全品298円」(いずれも税別)に値上げした焼鳥居酒屋チェーンの鳥貴族もそのひとつ。値上げを機に不振が長引き、今年6月に発表した2019年7月期第3四半期(18年8月~19年4月)決算では、営業利益が前年同期比で45.7%減。通期でも上場以来初の赤字となる見通しだ。

 とはいえ、値上げ額は1品たったの18円。果たしてそこまでの影響があるのか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞いた。

タッチパネル導入で店員と顧客とのコミュニケーション機会が低下

「居酒屋には幅広いメニューをそろえた『総合居酒屋』と、提供する商品のジャンルを絞った『専門居酒屋』があり、鳥貴族は後者にあたります。その鳥貴族の不調の原因は、値上げと並行して実施されたコストを抑えるために突き詰めた施策により、顧客にとっての魅力を削ぎ落としてしまった結果のように感じます」(有馬氏)

 総合居酒屋は1980年代後半から90年代にかけて全国へと展開し定着していったが、近年は軒並み不調に陥り、その代わりに強みを絞り込む専門居酒屋が台頭してきたという居酒屋業界の経緯がある。だが、その専門居酒屋の鳥貴族が不調ということは、専門居酒屋全体が危機なのだろうか。

「専門居酒屋という店舗形態の危機というよりは、鳥貴族の値上げと並行した経営合理化策の反作用といえます。例えば、オーダーを簡略化できるタッチパネルの導入です。注文や清算のミスがなくて合理的ではありますが、店員と顧客のコミュニケーションの機会は少なくなります。その結果、店員からの推奨販売の機会も減ってしまいました。また、タッチパネルだと顧客はいつでも自分のペースで注文できますが、料理やドリンクを提供するために必要な店側の時間は変わりません。すると、ピークタイムではオーダーがキッチンにたまってしまい、顧客としては『待たされる』という印象を抱いてしまうことになります」(同)

 鳥貴族がタッチパネルを導入したのは値上げと同時期の17年から18年にかけて。人件費の節減と業務の効率化を狙っての導入であるが、結果的には悪手となったのか。だが、タッチパネルを導入しているのは、ほかの多くのチェーン居酒屋も同じはず。

「メニューが豊富な総合居酒屋でしたら理にはかなっていますが、メニューが比較的少ない専門居酒屋の鳥貴族ではコミュニケーションの悪循環を生みだしてしまったようです。」(同)

 メニュー数で見ると、鳥貴族は専門居酒屋のなかでも決して多いほうではない。

「鳥貴族としては、自信のある売れ筋商品を注文してほしいという意図があると思います。ですが、売れ筋中心に絞り込まれたメニューだと、リピートを何度かするうちに飽きられてしまうデメリットもあります。居酒屋という業態は“遊び”の要素を期待して顧客は来店するのですから、合理的すぎると興ざめしてしまうのでしょう」(同)

「メガハイボール」が客単価を下げている

 しかし、同社リリースによると客数は目立って低調なわけではなく、2019年5月の客数は、前年同月比100.4%と、若干とはいえ今期初のプラス。キャンペーン等によって顧客の来店を促すことに成功しているが、売上が上がらないのはなぜか。

「それは客単価が上がらないからでしょう。鳥貴族では値上げに際して、ボリューム感を増した品も相応に導入されました。その結果、顧客からすると十分すぎる量が提供されるために追加注文をする必要性を感じなくなってしまったようです。女性からは『量を減らしてもいいから価格を安くしてほしい』との声もあるほどです。特に『メガハイボール』といった大ジョッキでのコスパのいいドリンクの提供によって、飲み物の追加オーダーが減少傾向にあるとのことです。『メガハイボール』なども同じく298円ですから、均一価格政策が裏目に出てしまったようですね」(同)

 同月の客単価は前年同月比98.2%。客足が回復しても単価が増えなければ、全体の売上もなかなか伸びない。合理化と店舗コンセプトに首を絞められて苦しむ鳥貴族の打開策は?

「鳥貴族に限った話ではないのですが、何かしらリピートしたくなる要素が飲食店には必要です。メニューを飽きさせないことや、店内の快適さ、店員とのコミュニケーションで顧客が店舗に愛着を持てるなど、店舗から提供されるトータルサービスの良さが常連をつくります。価格やメニューだけではない総合的な魅力づくりを意識してほしいですね」(同)

 コスパがよければ若い世代には受け入れられるが、その上の世代のツボを押さえないとこの厳しい外食シーンで生き残るのは難しい。鳥貴族は今後も値下げをするつもりはないとしており、その決断に間違いはないかもしれない。だからこそ、経営合理化以外でお店の魅力を充実させてほしいものだ。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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