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スターバックス 、成功の秘密は「セブンの真似」!「想定通り」の千店舗達成

文=梅本龍夫/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授、経営コンサルタント

スターバックスは好きだけど、お店が増えすぎると特別感がなくなってしまう」

 このような声を時々耳にします。日本のスターバックスは、2013年に1000店舗を超えました。確かに、今や主だった商業施設や都市のメインストリートはおろか、駅前、駅ナカ、高速道路のサービスエリア、空港、地下街、ドライブスルー、大学、病院と、およそあらゆる場所に進出し、「どこに行ってもスターバックスがある」という感じです。

 20年前の日本のスターバックス創業当時、関係者はこんな時代が来ることを予想していたでしょうか?

 驚かれるかもしれませんが、実はすべて想定通りだったのです。

 スターバックスにとって日本は初の海外進出国で、右も左もわからない状態でした。そこでパートナー企業としてサザビー(現サザビーリーグ)を選びました。サザビーは、ファッションブランドのアニエス・ベーや生活雑貨店とティールームの複合業態ブランドのアフタヌーンティーなどを展開し、日本人の嗜好性を熟知していましたが、コーヒービジネスについては素人同然でした。

 それにもかかわらず、スターバックスとサザビーは、「いつか1000店舗を出そう」という夢物語を共有し、スタートしたのです。それは、とてもワクワクする目標でした。

ブランドの確立と店舗拡大のジレンマ

 ただし、サザビー側は、単純に店舗を増やし続けようとするスターバックスの発想に疑問がなかったわけではありません。ファッションビジネスは、ブランドの希少性やプレミアム感を大切します。そのため、出店場所と店舗数には徹底してこだわります。「商売をもっと広げたい」という商人の本能にあらがい、「とどめを打つ」タイミングや規模の判断が、ブランドの長期的な価値を大きく左右することを経験的に知っていたのです。

 スターバックス側もブランドの価値には人一倍強いこだわりを持ち、自分たちの店舗を「スターバックス体験」の場と見なしていました。「最高のコーヒー、フレンドリーなバリスタ、洗練された店舗環境」が三位一体となり、「とびきり居心地のよい場所」となる。そんなコミュニティの核になることこそ、「スターバックス体験」の意味することだったのです。

「スターバックス体験」にこだわれば、そんなに店舗数は急速に増やせないはず。そこでサザビーの経営企画室は、自分たちのブランドビジネスの経験と日本のマーケット分析をふまえて、「300店舗」という中間ゴールを提案したことがありました。

 それに対するスターバックス側のリアクションは、「スターバックス体験のない店舗はスターバックスじゃない。しかし、店舗拡大を優先しなければ競合に良い場所を取られ、スターバックスは市場から駆逐されてしまう。店舗を出せなければ、スターバックス体験にこだわる理由もなくなる」として、店舗拡大を最優先課題に挙げました。

 サザビーが得意としてきた衣食住のライフスタイルは、ブランドのファンとなってもせいぜい週1回程度しか来店しない業態でしたが、スターバックスは毎日店舗を訪れてくれるファンの獲得を狙っていました。コミュニティの「サードプレイス」、つまり家(ファーストプレイス)と職場や学校(セカンドプレイス)の中間にあって、一日の疲れを癒し、元気を取り戻す場所となることが目的なのです。

 毎日でも通いたくなるサードプレイスを全国津々浦々まで、できるだけ早く出さないと競合に負けてしまう――。そんな未知の業態を展開していくには、サザビーが従来手がけてきたブランドとは違うビジネスモデルを模索する必要がありました。

セブン-イレブンの店舗展開を参考にする

 そこでサザビーは発想を転換し、店舗数を増やし続け、コミュニティの奥深くまで入り込む業態を探して参考にしようとしました。その結果、真似しようと考えたのはコンビニエンスストアです。特に、コンビニという業態を開拓し、店舗数でも革新力でも常に先頭を走っていたセブン-イレブンに注目しました。

 セブンは、1990年代にはすでに統計データや調査を通してベストロケーションを見つけだすノウハウを確立していました。日常の便利さを求める顧客のニーズを満たす商品やサービスをそろえるだけでなく、次の便利のタネを常に探し、率先して提供していました。店舗オペレーションも競合のコンビニチェーンより効率的で洗練されていました。

 弁当などは、飲食のプロであるサザビーから見ても、評価の高いクオリティーであることも印象的でした。サイエンス(データに基づく客観的手法)とアート(経験と勘を生かす主観的手法)をうまくブレンドした経営を続けた結果、セブンは店舗数でローソンやファミリーマートを圧倒するだけでなく、日販(一店舗当たりの一日の販売額)でも競合の2割以上高い業績を維持していました。毎日通う店舗の「ブランド力」がここにありました。

 コーヒーチェーンとコンビニは業態が違いますが、出店の仕方は案外近いものがあります。どちらもターゲットエリアを決めたら一気に複数店舗を出し、市場を面で押さえる「ドミナント出店」を志向しています。セブンは、どこまで店舗数を増やすことができるでしょうか。また、スターバックスはどうでしょうか。その答えは「進化力」にあります。

 今年8月2日、スターバックス1号店の銀座松屋通り店はオープン19年目を迎えました。開店当時と比べると、ドリンクメニューもフードメニューも格段に充実しました。来店客が自分好みにアレンジする「カスタマイズ」もすっかり定着しました。店舗のオペレーションは1店舗しかなかった時代よりも、はるかに複雑になっていますが、店舗パートナーたちの動きはずっと洗練され効率的になりました。しかも、1000店舗を超えても1店舗しかなかった時代と同じようにバリスタたちは笑顔で来店客を迎え、上質な「スターバックス体験」を支えています。

 それでもいつか、これ以上は店舗を増やせないポイントにたどり着くでしょう。その時こそ、ブランドの「進化力」が問われます。そう遠くない将来、コンビニもコーヒーチェーンも、量の拡大ではなく、質を無限に拡充する能力で、「ブランド力の差」が決せられるでしょう。
(文=梅本龍夫/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授、経営コンサルタント)

梅本龍夫/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授、経営コンサルタント

梅本龍夫/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授、経営コンサルタント

1956年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。電電公社(現NTT)に入社し、社内留学制度を利用してスタンフォード大学ビジネススクール修了(MBA)。ベイン&カンパニー、シュローダーPTVパートナーズを経て、サザビー(現サザビーリーグ)の取締役経営企画室長に就任。同社の合弁事業、スターバックス コーヒー ジャパンの立ち上げプロジェクトの総責任者を務める。2005年に退任し、同年アイグラム、2011年にリーグ・ミリオンを創業。サザビーリーグ退職後もコンサルタントとして10年間、同社が展開するブランドの企画などに携わってきた。現在、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授。2015年5月、『日本スターバックス物語──はじめて明かされる個性派集団の挑戦』を上梓。

Twitter:@Tatsuo_Umemoto

『日本スターバックス物語--はじめて明かされる個性派集団の挑戦 』 日米のカリスマ経営者たちが組んだ最強タッグの知られざる舞台裏を、日本でのスターバックス立ち上げプロジェクトを担った著者が綴る amazon_associate_logo.jpg

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