特に津賀氏自身をクローズアップするような企画は、「時期尚早」として受け付けない。このような津賀氏の姿勢を受けて、同社の広報スタッフは「積極的にインタビューに応じてくれた、中村(邦夫・前会長)や大坪(文雄・前社長)とは違うんです」と話す。事業で日本だけでなく、海外を飛び回っているので「時間がない」という言い訳も理解できないわけではないが、大切なものを見失っていないだろうか。
社内では論理的・合理的で冷徹と見られている津賀氏も外面はいい。大阪商人のパナソニック・マンらしく、低姿勢であり満面の笑みで愛想よく振る舞っている。この儀礼は、創業者の松下幸之助氏以来、同社の歴代社長たちが実践してきた。無口で恐いと社内で恐れられていた中村氏でさえ、対外的にはできる限り話す場を持とうと努めていた。雄弁な大坪氏は、積極的に広報マン役を買って出た。もっとも、メディア、ジャーナリストよっては好き嫌いがあったかもしれないが、総じて言うと広報マインドは高かった。
後述する東芝と同様、トップ広報に熱心であったがゆえに、パナソニックが大きな赤字を抱え込んだわけではない。そこに因果関係を持ち込むには無理がある。経営の4要素として、「ヒト、モノ、カネ、情報」があげられるが、広報はこれら4要素と連関し経営力を高める重要な経営資源の一つなのである。
現在の事情を知っているからか、年末に毎年開かれる記者懇談会などで見せる津賀氏の笑顔は、ご挨拶か、あまり懇意にしていないジャーナリストたちを招待しての「ガス抜き」に見える。「慇懃無礼」とは言わないまでも、似たような空気を多くのマスコミ関係者が薄々感じ取っている。
ただ、パナソニックが着々と新しい成長事業を立ち上げていることから、有力媒体で事業の進展を書いてもらい、リロケーション(事業の立地転換)を印象づける広報活動を強化しているようだ。特に「日本経済新聞」には、同社に関する前向きな事業関連の記事が定期的といっていいほど多く掲載されている。「広報効果」を考えた上で、媒体を絞りこんでいると考えられる。日経新聞関係者によると、「広告との絡みもある」そうだ。