そして「倒産はもう時間の問題」と騒がれた瀬戸際に三菱グループが救済に乗り出し、三菱商事、東京三菱銀行、三菱重工の三菱グループ主力3社が総額6000億円の優先株を引き受けるかたちで経営を支援。これで三菱自動車は窮地から脱出できた。この時、三菱商事から再建請負人として送りこまれたのが、三菱商事自動車事業本部長を務めていた益子修社長(現会長)だった。
それからおよそ10年。益子氏は中大型セダンの「ギャラン」「ディアマンテ」、軽乗用車セダンの「ミニカ」などからの撤退で自社モデル数のスリム化を進める一方、タイをはじめとする東南アジアでの生産・販売を強化する事業構造改革断行で経営再建を軌道に乗せ、14年3月期連結決算で営業利益1234億円、純利益1047億円を叩き出すなど2期連続で過去最高益を確保(15年3月期は営業利益1359億円、純利益1182億円で過去最高益更新)。この「益子再生」で14年3月末に総額6000億円の優先株を処理し、15年3月決算では16年ぶりの復配も達成した。
優先株処理以降、株式市場では「これで負の遺産も解消した。これからは成長戦略だ」との評価が固まり、三菱自動車は市場での信用を回復したかに見える。財務体質が健全になり、業績も好調だ。
3つの構造的問題
しかし、それでも証券アナリストの間では「三菱自の株は買いとの太鼓判を押せない」との声が多い。その理由について自動車業界筋は「同社が肝心の3つの構造的問題を解決していないからだ」と、次のように説明する。
(1)米国での生産撤退を決断させた「止血」問題
三菱自動車の販売は、主力市場の日米で依然低迷が続いている。成長戦略どころではなく、いまだ「止血」に汲々としているのが実情だ。国内市場ではディーラー一店当たりの販売効率が業界最低のままだといわれる。他の国内自動車メーカーが円安の追い風も受けて国内市場で稼げる営業体力を回復している中、同社1社がそれから取り残されている格好だ。国内販売立て直しが急務になっているが、同社が13年11月に発表した16年度までの新中期経営計画において具体的な言及はない。
米国市場も同様で、アジアをはじめとする新興国市場向けの商品開発を優先しているためか、米国向け商品開発は棚上げ状態だ。このため、米国市場では、過去の乱売で浸透した安売りイメージが今も定着したままといわれている。
「選択と集中と体裁を繕っているが、米国生産撤退の真因は、中国・韓国製より低いブランド力にある」(前出・業界筋)