(2)三菱自動車救済を主導した三菱商事とのしがらみ
具体的には海外販売独立性の問題だ。三菱自動車がこれからの成長戦略展開の場に位置付けている新興国市場と欧州での販売は、三菱商事の販路に頼っている。自前の販売チャネルがないため、車のメンテナンスをはじめとするアフターサービスの「おいしい部分」をすべて三菱商事に吸い取られている。海外戦略も独自では展開できず、何をやるにしても三菱商事との事前調整、すなわち「お伺い」が必要になり、迅速な行動や大胆な独自行動ができない。これについてはトヨタ自動車関係者も「海外市場では、どう見ても『三菱商事海外自動車部』としかいいようがない」と同情する。
(3)提携戦略の不安定さ
現在、自動車メーカーは大小を問わずどこかと提携しなければ生き残りができない時代。このため、三菱自動車も経営再建中の過去10年間、軽自動車やピックアップトラックのOEM(相手先ブランド供給)拡大で工場の稼働率を確保し、OEM車販売の拡大で売り上げ確保も図ってきた。
その一方で、日産自動車、スズキ、仏ルノー、仏プジョー・シトロエングループ、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズなどとの事業提携を積極的に推進してきた。
「三菱自動車はいずれも足元を見られ、不利な条件を呑まされている。要するに事業提携の名のもとに、技術力や商品開発力のおいしいところを提携先にうまく利用されている。利用価値がなくなったら、相手から提携解消を言い渡されるのは目に見えている」(前出・業界筋)
つまり三菱自動車にはマツダの「スカイアクティブ」のような断トツ技術がないため、マツダとトヨタ自動車のような長期的展望のある互恵提携がどの大手ともできない。したがって、生き残りを保証する長期戦略が描けないと言うわけだ。
プリンス登板
三菱自動車再建請負の任を果たした益子氏は昨年6月、トップの座を相川社長に譲り、会長に退いた。同社生え抜きの相川氏は開発畑出身で、役員就任後は国内営業も経験するなど、早くから「社長候補」と目されていたプリンス。
その相川氏は社長就任挨拶で「台数を追わず、利益重視の経営を追求する」と断言。さらに「プラグインハイブリッド車や電気自動車の次世代技術開発に経営資源を重点的に投入してこれら技術の進化を図る一方、その成果をSUVに横展開し、『三菱自動車らしい』と言われるクルマづくりに励む。それで値引き販売に依存しないブランド力を再構築する」と述べ、技術者上がりの社長らしい意気込みを見せた。
3つの構造的問題云々はさておき、米国生産撤退で余力が生まれた経営資源を、これからの成長の場とするアジアでいかに生かしていくのか、相川新社長の経営手腕が注目される。
(文=福井晋/フリーライター)