パナソニックが照明器具の2工場を9月末に閉鎖する。生産ラインは別工場に移管し、約10億円を投資して生産の自動化を進めるという。これにより、照明器具の生産能力を従来より数%高め、営業利益率も高めるという方向。具体的には、2016年3月期で照明事業の営業利益率を6.1%へ上げることを目指すとしている(15年3月期は4.7%)。
報道に接したとき私はてっきり、津賀一宏社長が推し進めてきた「選択と集中」の流れのなかで、照明事業から撤退するのかと思った。というのは、照明分野で世界最大の蘭フィリップスの日本法人フィリップスライティングの社長を務めていたことがあり、近年の照明ビジネスの厳しさを知っているからだ。
以前は電球や蛍光灯を製造するのはエレクトロニクスではなく窯業の分野で、大変な装置産業だった。日本市場もパナソニックの前身である松下電機産業、東芝、三菱電機、日立製作所、日本電気(NEC)の大手5社で寡占状態だった。
ところがLED照明の時代に入ると参入障壁がずっと低くなった。結果、新興メーカーが多数活躍するようになり、パナソニックもLED照明器具を生産するインドネシア工場(西ジャワ州)を10月末までに閉鎖することを決めていた。
見事だった津賀改革の第1ステージ
パナソニックの年商は7兆7000億円にも上り(15年3月期)、総合電機メーカーとして多岐の事業を手がけている。経営トップとしては、個々の事業の盛衰にこだわるより、全体最適としての「事業ポートフォリオ(組み合わせ)」経営を心がけなければならない。
津賀氏がパナソニック社長に就任した12年6月、私は「再生戦略は『家まるごと』だ」と、ブログでエールを送った。津賀氏は着々と経営改革を進め、事業分野としては住宅に加え自動車関連に的を絞ってきた。BtoCからBtoBへの流れだとも解説できる。「パナソニックは家電の会社ではない」「当社は負け組だ」など刺激的な言質も織り交ぜながら社内の意識改革を進め、7000人もいた本社をわずか150人ほどの陣容に縮小するなど、豪腕を振るってきた。
その結果、15年3月期の年商は7兆7000億円強と、津賀氏が就任する前の12年3月期7兆8500億円強とあまり変わらないが、営業利益は437億円(12年3月期)から3819億円(15年3月期)と9倍増の実績である。事業ポートフォリオの組み替えが効を奏してきた。