謹慎処分となっていた11人の芸人が8月19日から劇場復帰するという“謹慎解除”を発表し、問題解決の第一歩を踏み出した吉本興業。その最大の“功労者”として、ダウンタウン・松本人志の名が挙がるのは当然のことだろう。雨上がり決死隊・宮迫博之とロンドンブーツ1号2号・田村亮による記者会見の直後の7月21日には、自身のレギュラー番組『ワイドナショー』(フジテレビ系)を生放送に切り替え、歯に衣着せぬ吉本批判をさく裂させてみせた。吉本上層部にも掛け合い、「こんな取締役の体制が続くなら吉本を辞める」と宣言した極楽とんぼ・加藤浩次をも説得し、“加藤の乱”をものの見事に収めたともいわれている。
今回の闇営業騒動における松本人志の“功績”を、吉本興業に近いある芸能関係者は次のように明かす。
「今回の闇営業騒動は、『現在の吉本興業は“松本興業”なのだ』ということを、図らずも世間に知らしめることとなりました。吉本の大崎洋会長と岡本昭彦社長が松本さんの言いなりだということは、多くの雑誌やワイドショーでも報じられていましたが、島田紳助さんが引退して以降、この体制はより強化されたように思いますね。明石家さんまさんはもちろん吉本の重鎮ですが、吉本の“松本興業化”に嫌気がさして、退社をほのめかしていたほど。やはり、赤坂のワンルームで黒電話2台から始まったという東京吉本が、ここまでお笑い帝国化したのはダウンタウンの功績以外の何物でもないですから。
そんな松本さんが火消しに走ったことで、本来なら即刻クビだったはずの闇営業芸人たちが、まさかの謹慎解除を迎えることができた。この展開は、やはり吉本興業が“松本興業”であるからこそ成立したといえるでしょう」
松本人志はビジネスモデル発明の天才
しかし、いくら“功労者”だとしても、なぜ松本は、自身の所属事務所にすぎないはずの吉本興業対してここまでの力を持つことができたのか? 長らく第一線で活躍してきたある放送作家は、以下のように語る。
「松本さんは単なるお笑いタレントではなく、“発明家”なんですよ。『笑ってはいけない』シリーズを発明して大晦日の民放視聴率第1位を獲り続けたり、大喜利をシステム化して番組に落とし込んだり、あるいは、『すべらない話』(フジテレビ『人志松本のすべらない話』という、セットやロケなどにカネをかけない、芸人の喋り一本の企画でゴールデン番組を作ってみせたのも松本さん。最近の例では、アマゾンプライムビデオの『ドキュメンタル』はプライム会員を激増させた大発明といわれており、数億円にも及ぶ契約金を手にしているといいます。
さんまさんをはじめ、その他の売れっ子芸人たちも、もちろんテレビタレントとして本当に優秀だと思います。けれど松本さんは、新たな“ビジネスモデル”そのものをゼロから立ち上げ、それをきちんと回してみせることによって莫大な利益を吉本にもたらしている。だからこそ吉本興業の上層部は、誰も彼には頭が上がらないのです」
“松本ファースト”な吉本興業
そんな松本は今回の件に関し、「誰ひとりとして吉本を辞めさせず、事態を収束する」と発言しているとか。宮迫にも救いの手を差しだしてはいるが、宮迫が自身の“預かり先”として選んだのは「松本ではなくさんま」だと、8月8日発売の週刊文春は報じている。
「宮迫さんは、今回の件で松本さんにも嘘をついてしまい『合わせる顔がない』と語っているとされていますが、コトはそう単純ではない。松本さんについていくということはすなわち、実質的に吉本興業の内部にとどまることを意味するわけです。記者会見の際の、岡本社長からの“パワハラ”を匂わせる発言もそうですが、もう宮迫さんには、吉本に対する未練は一切ない。だからこそ、松本さんではなくさんまさんを選んだのではないでしょうか。
今の芸人さんの多くが、“お笑いの求道者”松本人志に憧れてこの世界に入ってきているのは確かに事実。しかし、松本人志が偉大すぎて、“松本ファースト”な吉本興業のありように嫌気がさしてしまうというのも、また一方の事実ではあるんです。今回の件で松本さんに同行して吉本上層部と掛け合ったという東野幸治さんも、そんな“松本信者”のひとり。以前、あるインタビューで『松本人志を意識すると自分の芸人としての限界が突きつけられてしまうので、“松本人志は芸能界にいない”という設定で仕事をしていたことがある』と明かしています。それほどまでに松本さんの影響力は絶大だからこそ、特に若手のなかには、“あえて近づきたくない”という者も多い。
松本さんは『吉本の上層部が変わらなかったら、おれが全芸人を連れて吉本を出ていく』などと番組内でコメントしていましたが、本当にそんな事態になった時、実際に松本さんについていこうとする芸人は意外と少ないかもしれません」(前出・放送作家)
闇営業問題が浮き彫りにした、「松本興業」というもうひとつの“闇”。吉本上層部にも松本人志にも翻弄され、右往左往してしまう後輩芸人たちに明日はあるのだろうか。
(文=藤原三星)