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なぜ「安かろう、まずかろう」のかっぱ寿司買収?あの急成長企業、ついにマック超え!

文=福井晋/フリーライター
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なぜ「安かろう、まずかろう」のかっぱ寿司買収?あの急成長企業、ついにマック超え!の画像1かっぱ寿司の店舗(「Wikipedia」より/Kici)
 デフレの勝ち組といわれたすき家(運営元:ゼンショーホールディングス<HD>)、日本マクドナルドHD、ワタミなどの経営が迷走しているのを横目に、「外食日本一」を虎視眈々と狙っている会社がある。回転寿司のカッパ・クリエイトHD(以下、カッパ)を傘下に収めたコロワイドだ。

 コロワイドはすき家やマクドナルドのような看板となる有名チェーン店がないため、一般の知名度は低い。だが、外食業界内では「今もっとも勢いがある」といわれている企業だ。昨年12月にカッパを連結子会社化したことにより、2016年3月期は売上高2488億円を予想しており、国内外食業界売上高ランキングで前期の6位から一気に日本マクドナルドHDを追い抜き3位に急浮上する見込みだ(日本マクドナルドHDの14年12月期売上高は2223億円。15年12月期の売上高予想は未定。2000億円前後まで減少との証券アナリスト予想もある)。

 コロワイドが00年10月に東証2部に株式を上場した時の売上高は約170億円。その頃はまだ、中小企業の1社にしかすぎなかった。ところがその後、外食産業では珍しい積極的なM&A(合併・買収)で急成長し、たった15年で売上高を約10倍に急拡大した(15年3月期売上高は1776億円)。この間に十数件ものM&Aを繰り返している。15年3月末現在、居酒屋「甘太郎」「北海道」、焼肉店「牛角」、ステーキ専門店「ステーキ宮」、イタリアンファミレス「ラ・パウザ」など56業態・2462店を展開している。

 外食業界では基本的に「単一業態・大規模チェーン展開が成長のセオリー」といわれている。食材大量調達による仕入れコストダウンなど規模の経済性が働くからだ。ところが、それとは真逆の多業態・中規模チェーン展開(主要19業態の74%が100店以下)で成長を目指しているのがコロワイドの特徴といえる。

 そんなコロワイドが社運を賭けて実施したといわれるのが、カッパの買収だった。買収総額も同社としては過去最大の261億円だった。

カッパ・元気、経営統合消滅の舞台裏

 回転寿司2位のカッパと同5位の元気寿司の経営統合が発表されたのは、13年11月末のことだった。2期連続で最終赤字に沈むなど業績不振を続けるカッパの経営を建て直すため、両社の筆頭株主である米卸最大手の神明(神戸市)が描いたシナリオだった。神明の藤尾益雄社長がカッパの社長を兼任し、自ら経営統合を指導することになっていた。そのシナリオが突如消滅した。

 業界関係者たちの証言を総合すると、その裏には次のような水面下の動きがあった。

 「コロワイドの番頭」こと同社の野尻公平社長が、東京・日本橋にある神明東京事務所に藤尾氏をひそかに訪ねたのは、経営統合発表直後の12月初旬だった。野尻氏はまるで藤尾氏の心中を見透かしたかのように「経営統合で再建とは、実際はお困りなのでは。どうです、カッパをうちに譲ってもらえませんか」と、単刀直入にカッパの買収意思を伝えた。その時は「譲渡をお願いします」「御社のお気持ちはしかと承りました」で極秘のトップ会談は終わった。

 米の安定的大口販売先確保の目論見で神明がカッパを買収したのは、13年4月のことだった。だが買収後にカッパの内情を精査してみると、「安かろう、まずかろう、食の安全性も不安」の悪評定着、本部の指導に現場が面従腹背する従業員の根強い経営者不信など、神明が予想していた以上に経営状態が酷く、14年2月期は2期連続の最終赤字。運転資金融資を事実上拒む銀行を、藤尾氏が個人保証人になるかたちで融資を承諾させなければならないほどだった。カッパの資金繰りをなんとかしのぐと、藤尾氏は「一歩踏み込んだ再建策」として自ら描いた「元気寿司との経営統合」のシナリオに自信を持てなくなっていた。

 昨年8月、藤尾氏は野尻氏の要請を受け、都内のレストランで再度極秘会談をした。その場で野尻氏がまたも単刀直入に「カッパを譲ってもらえませんか」と切り出した。会談要請を受けた時点で腹を括っていた藤尾氏は「お願いします」と即答した。

 その後、「カッパと元気の経営統合白紙へ」というニュースが昨年10月2日、一斉に報じられた。同月27日にコロワイドがカッパのTOB(株式公開買い付け)を発表すると、同社がいきなり業界上位へ台頭してきた影響力の大きさに、「買収の噂は本当だったんだ」と業界内に衝撃が走った。

 では、コロワイドはカッパのどこが魅力で買収したのか。

消費者の財布独り占め戦略

 1977年に居酒屋「甘太郎 逗子店」を開店、80年代後半からそのチェーン展開を本格化したのがコロワイド成長の始まり。居酒屋事業は同社の祖業といえる。だが、夜しか営業できない居酒屋の市場規模は約1兆円(14年外食産業市場規模推計/日本フードサービス協会より)。ワタミの凋落が示すように市場は縮小傾向を強めている。対して昼から夜まで営業できるファミレス、ディナーレストラン、寿司・焼肉店などのレストラン系市場規模は客層が広いこともあり約13兆円(同)に上る。

 このためコロワイドは、「居酒屋事業は先行きが暗い」(同社関係者)と居酒屋チェーンの拡大にストップをかけ、05年頃から非居酒屋事業に活路を求め、積極的なM&Aで「非居酒屋シフト」を進めてきた。そして焼肉チェーン「牛角」を展開するレインズインターナショナルを12年に買収したのを機に、同一エリア内に多様な業態店を出店する「多業態ドミナント戦略」を打ち出した。目指すのは「消費者がその日のニーズで飲食店を選べる総合外食産業」(同)だ。

 近年は、たとえば祝いごとなど「ハレの日」は高単価のディナーレストランで外食、普段の日は低単価の回転寿司、ファミレスなどで外食と、「外食の使い分け」が進んでいるといわれる。こうしたニーズをグループ全体で囲い込み、「消費者からの収益最大化を図る」(同)、すなわち消費者の財布独り占めが総合外食産業追求の狙いといえる。

 野尻社長は15年3月期の決算説明会で「回転寿司市場は縮小しない。カッパの買収で事業ポートフォリオがより健全化する」と買収のメリットを強調した。実際、コロワイドの非居酒屋事業はそれまで「肉類系業態」が多かったが、カッパを加えることで「鮮魚系業態」の比率が増し、より幅広い客層の取り込みが可能になる。社運を賭けて買収したというのもある程度うなずける。

もうひとつの狙い

 実はカッパの買収にはもうひとつ狙いがあった。食材調達から食材加工、商品開発までを一気通貫で行うマーチャンダイジング機能の強化だ。平たくいうとメーカー機能の強化だ。

 コロワイドは全国5カ所に食材加工・調理工場を持っている。これら工場の稼働率を高めるためには店舗数拡大が欠かせない。その意味で買収時に340店を持っていたカッパの魅力は大きかったようだ。14年3月末現在2080店だった総店舗数は、カッパを連結子会社化した15年3月現在2462店となり、約18%も増加している。

「これからの外食産業はマーチャンダイジング機能を強めなければ生き残れない」(コロワイド関係者)

 同機能が強まれば多種の食材を低価格で大量調達できると同時に自社工場の稼働率が上がり、食材加工コストを圧縮でき、利益率が高まる。そのためにも多業態ドミナント出店拡大で消費者の財布を独り占めする必要があるようだ。当然、配送の効率化にもつながる。

業績不振企業を成長企業に変身

 コロワイドはカッパの最大課題である経営再建にも自信があるようだ。過去にも「ステーキ宮」「牛角」など何社もの問題店を抱えていた企業を再生してきた実績があるからだ。

 再建のコツは、やはり経営者に振り回されて疲弊しきった社員の士気回復にあるようだ。

 これに関して、コロワイド創業者の蔵人金男会長は14年11月30日付け日本経済新聞の取材のなかで、次のように語っている。

「買収した会社の社員には、真っ先に『これから当社は普通の会社になります』と話す。問題企業は経営者やオーナーが会社を私物化し、社員の改革意欲を奪っているからだ。だから『お客様にサービスして喜ばれることに誇りを持つ商人たれ』と、熱っぽく語りながら仲間意識の醸成に努める。まずは社員の改革意欲をかきたてるのが先決。そうすれば社員は自ら改革に立ちあがる」

 コロワイド関係者によると、蔵人氏の口癖は「カンパニーとは同じ釜の飯を食う仲間の意味だ」。この牽強付会のような理屈で、経営者と社員の一体感を強めるのが蔵人流のようだ。買収した会社のチェーン本部は例外を除いて横浜市内のコロワイド本社に集め、親会社、子会社の別なく大部屋で一緒に仕事をさせる。「意思疎通が速いし、被買収会社の社員も短期間で社風に慣れる」(前出関係者)。蔵人会長も野尻社長も部屋に来ると生え抜き、中途採用、親会社、子会社の別なく社員に声をかけて回る。実績を上げた社員は経歴に関係なく重用する。

 この社風で高まった求心力を基に不振に喘いでいた会社を再建し、成長企業に変身させる。それがコロワイドの再生モデルといえる。

課題

 もちろん、コロワイドにも課題がある。財務体質だ。

 カッパ買収にかかった総費用305億円のうち、300億円を銀行からの新規借入で賄っている。15年3月期営業利益(53億円)の約6倍分だ。連結総資産も14年3月末の1368億円から15年3月末には2043億円へ膨らんだ。M&Aの繰り返しで自己資本比率が15.3%から10.7%へ低下したためだ。この脆弱な財務体質の改善が喫緊の課題になっている。

 それはさておき、業界関係者の最大の関心事は、同社の多業態・中規模チェーン展開が単一業態・大規模チェーン展開に取って代わる新しい成長理論になるのか、同社だけの特殊理論になるのかの見極めだ。外食業界の成長が大きな分かれ道に差し掛かっている時期だけに、同社の今後が注目される。
(文=福井晋/フリーライター)

福井晋/経済ジャーナリスト

福井晋/経済ジャーナリスト

1948年大阪市生まれ。ITビジネス誌記者、ビジネス総合誌編集長などを経て2001年よりフリーに。マーケティング論が専門。これまで上場企業を含め1000名以上の社長に経営戦略を取材。

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