良い財政政策、悪い財政政策…各国が財政出動競争の一方、日本だけ国民負担増の施策
そして何よりも、過剰貯蓄により特に日本や欧州の中立金利がマイナスの状態にあり、金融政策のみではこの危機に対応できないなかでは、元米財務長官のサマーズ氏や元FRB議長のバーナンキ氏、ノーベル経済学者のクルーグマン氏、元IMFチーフエコノミストのブランシャール氏、等の主流派経済学者が指摘しているように、積極的な財政政策を打ち出すことは、経済主体が長期的には合理的でも市場の失敗は財政で補うという新しいケインズ経済学(ニューケインジアン)の視点からも正当化されつつあることが背景にある。
乗数効果とは何か
こうした財政政策の効果は、乗数で計られるのが一般的である。乗数効果とは、経済資源に余裕がある不完全雇用の経済を前提とした場合、例えば政府が公共投資や減税を通じて負担を増やすことで国民所得が増加すると、それによって個人消費や設備投資といった民間支出が誘発されることを通じてさらに国民所得が増大し、そこからまた民間の支出が誘発される、といったように等比級数的に国民所得が拡大することを意味する。そして、最終的に有効需要1単位当たり何単位の国民所得が拡大するかといった比率が乗数となり、これが財政政策の効果を示すことになる。
ただ、乗数効果を持ち出す際に必ず議論となるのが、公共投資と減税による乗数効果の違いである。理論的に考えれば、公共事業の増加は用地費を除いた分だけ直接需要に結びつくのに対し、減税の場合は民間の限界支出性向(所得が1単位増加した際に支出がどれだけ増加するか)次第で需要の増分は異なる。しかし、一般的に減税分の一部は貯蓄に回ることから、我が国では減税よりも公共事業の乗数のほうが高いとされている。事実、内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2015年版・2018年版)の乗数分析においても、公共投資と家計減税、企業減税の乗数効果を比較すれば、公共投資が最も大きくなっていることがわかる。
このように、財政政策の効果を検証する方法としては、マクロ計量モデルを用いて公共投資や減税の乗数効果を計測することが一般的であり、乗数も1を上回る結果が得られている。特に日本では、日銀のイールドカーブ・コントロール導入によりクラウディングアウトは回避でき、財政の助けで金融緩和がより効果を発揮するという状況になっている。
実際、日銀においても、2016年11月に公表した展望レポートのなかで、大規模な財政出動と強力な金融緩和の合わせ技が為替レートやGDP、インフレ率に与える影響を評価するシミュレーションを披露している。そして、名目金利を固定した場合、公共投資がベースラインから名目GDP対比1%分増加したケースで財政乗数が4年目以降には0.6程度上昇することが示唆されている。