日本の生産性が先進諸国と比較して著しく低く、これが豊かさを感じられない原因のひとつとなっていることは、すでに多くの人が認識しているだろう。日本の経済規模が相対的に小さくなっており、輸入に頼る日本人の生活水準を引き下げていることも共通の理解となりつつある。
だが私たちは、一連の問題に対して有効な解決策を示すことができていない。
量的緩和策はある程度、国内の物価を上昇させたが、米国や欧州のような具体的な成果を上げることはできなかった。むしろ物価上昇に比して賃金が上がらず、消費者の生活水準を下げているというのが現実といってよい。
つまり日本社会は普遍的な経済理論が通用しない、特殊な環境にあると解釈できるわけだが、筆者は、日本がこうした状況に陥っているのは、日本人の思考回路に大きな要因があると考えている。この部分を改善しない限り、マクロ的な政策の効果は十分に発揮されない可能性が高い。
ほとんどの議論がロジカルに行われていない
日本人の思考回路に問題があるというのは、冒頭に紹介した生産性の議論を見ればよく分かる。日本の生産性が低いというのは「事実(ファクト)」であり、ここに解釈の余地が入る隙はない。ロジックで考えれば、日本の生産性が低く、それが貧しさの原因になっているのであれば、生産性を向上させる必要があるとの結論しか導き出せない。
ところが日本では、どういうわけか「生産性だけですべてを測ることはできない」「多くの日本人は一生懸命やっているはずだ」といった議論になってしまう。ここでの論点は、「生産性ですべてを測ることができるのか」や「日本人は一生懸命仕事に取り組んでいるのか」ではなく「生産性を上げるにはどうすればよいか」である。
すでに最初の段階で論点がズレており、このような議論をしていては、いつまで経っても解決策(ソリューション)を提示する段階には到達しない。
「生産性を上げるべきだ」という結論に達したとしても、そこからがまた大変である。
生産性は、その定義上、付加価値、労働時間、社員数の3要素で決まる。要するに儲かるビジネスに転換し、少ない社員数で、短時間で仕事をこなせば生産性は向上するという話だ。これは生産性の定義に由来する結論なので変えようがなく、生産性を上げるためには、利益率を上げる、労働時間を減らす、社員数を減らすという施策を実行する以外に方法はない。