また、欧州委員会のバローゾ委員長も「ムーディーズの(ポルトガル)格下げは透明性を向上させない。むしろ投機的要素を加えるものだ。欧州に格付け機関が1社もないのも奇妙だ。欧州に特有な問題を評価するに当たり、ある種のバイアスが市場にあるように見受けられる」と続いた。
PIGSに代表される南欧諸国の財政・金融危機に苦悩する欧州において、大手格付け3社は「投機筋を暗躍させる鬼っ子」のような存在と映る。「一民間会社に過ぎない格付け会社に、なぜ、欧州経済が翻弄させられなければならないのか。これでは米格付け会社の手の上で踊らされているようなものだ」(欧州委員会首脳)との不満は根強い。そうであれば、いっそのこと欧州独自の格付け会社を創って、欧州の格付けはそこに一本化してはどうかという提案である。
●ひそかに海外撤退したR&I
格付け会社への規制強化を受けて、海外から撤退した格付け会社もある。
「知られていないことですが、日本の有力格付け会社であるR&I(格付投資情報センター)が昨年10月、米国SECの登録を取り下げました。事実上の米国撤退です」
メガバンクの幹部は、こう残念そうに明かす。撤退の理由は、米国における格付け会社に対する規制強化にあるようだ。関係者によると「米SECの検査への対応も含め、コストに見合わなくなった」という。欧米における金融規制強化の影響は、日本の格付け会社にも及んでいる。
米国では10年7月に成立した金融改革法(ドッド・フランク法)に基づき、SECによる格付け会社への検査が強化されており、日本のR&I、日本格付研究所の両社も検査を受けている。その結果、コストに見合うメリットがないことからR&Iは撤退を決めた。「日系2社の年間売上高は10~20億円程度。これに対し、米系のムーディーズ社のグローバルベースの年間売上高は約1500億円に及ぶ。マーケットシェアからみて勝ち目はない。R&Iは国内に特化したほうが得策と考えたのだろう」(メガバンク幹部)と見られている。
格付け会社に対する規制強化や責任追及の波は、終わりそうにない。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)