サブウェイの恐怖…注文の選択肢「4400万通り」で消費者を遠ざける
この効果を経験的に知っている売り手は、買ってもらうためにさまざまな工夫をします。カテゴリーの商品が似たりよったりの場合は、本質的な機能には重要でない、ちょっとした特徴が、店頭でタイムプレッシャーを感じている消費者の購買動機になったりします。
たとえば、インスタントコーヒーの顆粒をザラザラにしたり、歯みがき粉を色相別に練りこんだりすると、それが購入の決め手になるのです。あるいは家電量販店で、似たような特徴を持った4Kテレビの中で購入を決めかねているときに、販売員が「今、◯◯ブランドで決めていただけるならば1万円値引きしますよ」と提案したとしましょう。数ある選択肢の中で、◯◯ブランドの1万円引きがポジティブでユニークな特徴となるので、決断が楽になったりします。
タイムプレッシャーの下でヒューリスティックを使うことによって誤った選択をしないためにも、かしこい消費者は「本当に今、買う必要があるのか」(必要性)を再考し、購買を先送りすることで、無駄な衝動買いを防ぐことができます。
一方、優柔不断になり過ぎてしまい、決断を先送りしてしまうことによって、逆に効用を下げてしまうこともあります。
たとえば、パソコンを買い替える際に、些細な機能の違いで迷ったり、新モデルがそろそろ出るかもしれないからと、購買を先延ばししたりすることがありませんか? このような場合は、先送りしている期間、新しいパソコンの生産性にあずかれない機会損失と、誤った選択肢を選んでしまうリスクとを天秤にかけて、購買すべきかどうかを決めるべきです。「住めばミヤコ」、機能の違いが些細であれば、間違った選択肢を選んでも効用はそれほど悪化しないので、先送りの機会損失のほうが大きいかもしれません。
(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)