「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。また、マーケティングと聞くと華やかな職種というイメージも強く、就職活動中の学生の間にも志望する向きが多いようだ。
過去2回の本連載において、「マーケティングとは何か」「マーケティングはなぜ必要か」について解説したが、今回は「マーケティングにおける市場調査の重要性」について立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞いた。
――マーケティングにおいては、なぜ調査が必要なのでしょうか?
有馬賢治氏(以下、有馬) マーケティングの大原則として、「売れるものをつくらなければいけない」ということは以前にもお話ししましたが、「どうやったら売れるものをつくれるのか?」を調べる必要があるということですね。つまり、消費者の声を製品開発に生かすことが市場調査、ということになりますが、漠然と適当に街の人をつかまえて「どんなものを買いたいですか?」と聞くフリーハンド的方法を取っても、抽象的な答えしか得ることができません。そこで、「市場細分化」(セグメンテーション)の観点を利用しながら人物像を掴んでいくわけです。
――アンケートの最初に書き込む、年齢や職業などのプロフィールですね。
有馬 はい。それらは一例ですが、さまざまな基準を使用して市場を分類することで、より効果的な回答が得られます。例えば、「性別」「年齢」「居住地」「配偶者の有無」などの個人情報に加えて、「内向的or社会的」「新しいもの好きor保守派」「アウトドア派orインドア派」といった心理的要因も踏まえることでターゲットを絞ります。これら複数の分類基準を組み合わせて「都会に住むアウトドア派の20代独身女性」や「地方で家族を持っている新しいもの好きの30代男性」という具合です。こうして、ある程度の人物像をプロファイリングしていくことを「標的市場の設定(ターゲッティング)」といいます。
――これを定めることで、買ってくれそうな人の目星をつけやすくするということでしょうか?
有馬 そうですね。あまりカスタマイズしすぎると購買層の範囲が狭くなってしまいますが、「タブレット用の別ポケットがついたキャリーケース」を男性ビジネスマン向けに、「着膨れせずに保温効果を得られるヒートテック」を若い女性向けになど、設定した人物に向けて商品開発を進めることで、効率よくものを売ることができるというわけです。