ここで疑問なのは、なぜサンディスクが身売りに出たかということである。
NANDフラッシュメモリは、東芝が1987年に発明した電源を切っても記憶が消えないメモリで、その特徴を生かしてデジタルカメラ、iPod、携帯電話、スマホ、PCなどに次々と採用され市場を拡大してきた。最近では「モノとインターネットの融合(IoT)」の普及とともに、需要が増大しているサーバーやデータセンタのHDDをNANDフラッシュメモリが代替し始めており、さらなる市場拡大が見込まれている。
14年のNANDフラッシュメモリの売上高世界シェアでは、サムスン電子(30.8%)、東芝(20.5%)、サンディスク(19.7%)、米マイクロン・テクノロジー(12.9%)、韓国SKハイニクス(9.5%)、米インテル(6.6%)となっており、東芝とサンディスクの合計シェアがサムスン電子を上回っている(図1)。
サンディスクの売上高、営業利益、および営業利益率の推移を見てみると、01年のITバブル崩壊、08年のリーマン・ショックの時は赤字に陥ったが、ほぼそれ以外の時期は営業利益率が20%を超えており、全体的に業績は好調であるといえる(図2)。
つまり、将来NANDフラッシュメモリ市場が拡大すること、シェアが高いこと、業績が好調なことから考えると、サンディスクが身売りしなければならない理由が見当たらないのだ。粉飾会計が発覚した東芝に愛想を尽かしたのかとも考えられたが、その理由が最近やっとわかってきた。
東芝の3次元NANDに対する不信感
その理由は、ポストNANDフラッシュメモリをめぐる東芝との意見の相違にあるようだ。東芝は、BiCS(Bit Cost Scalable)と呼ばれる3次元構造のNANDフラッシュメモリを推し進めようとしている。ところが、サンディスクは東芝のBiCSの技術をあまり信用していない気配がある。
3次元NANDでは、サムスン電子と東芝の一騎打ちになると思われる。しかし、数年前から今に至るまで、どうも東芝の旗色が良くない。学会で初めて3次元NANDを発表したのは東芝だが、サムスン電子は13年8月6日に「V-NAND」と呼ぶ3次元NANDを量産すると発表した。
東芝はその翌日の7日に「2013年度 経営方針説明会」で、今年7月に辞任した田中久雄前社長が、「BiCSを14年上期に量産する」と突然発表した。2日続けて、サムスン電子と東芝が3次元NANDの量産計画を公表したわけだが、本当のところはサムスン電子が先に量産を発表したので、東芝としては沽券にかけても遅れるわけにはいかないと、慌てて翌日発表したということだろう。