では、果たして東芝は本当にBiCSを量産できるほど開発が進んでいたのか、13年9月に行われた秋の応用物理学会にて、東芝のBiCSについて情報収集したが、「目途が立っていない」というのが事実のようで、客観的に見てサムスン電子から2年ほど遅れていると判断せざるを得なかった。
話は逸れるが、こんな状況なのに平気で「BiCSを14年上期に量産する」などと発言するところに、辞任に追い込まれた東芝の経営陣の世の中を舐めている態度が透けて見える気がする。
さて「(量産の)目途が立っていない」東芝は、それを裏付けるようにその後BiCSの構造、材料、製造装置などで迷走を続けた。サンディスクは、そのような東芝のBiCSの技術を信用できなかったと思われる。
ポストNANDの意見の相違
では、東芝のBiCSを信用しないサンディスクは、ポストNANDフラッシュメモリ候補として何を考えているのか。
それは、電圧の印加による電気抵抗の変化を利用したReRAM(Resistance Random Access Memory、抵抗変化型メモリ)であると思われる。ところが、東芝はReRAMの開発に積極的ではない。
つまり、ポストNANDをめぐって、かたや東芝はBiCS、かたやサンディスクはReRAMをその候補と考えており、意見の相違が明確になってしまった。これが、東芝と決別して身売りしようとする大きな要因になったと思われる。
そのようなタイミングで、NANDフラッシュメモリに加えてReRAMの技術を欲しがっていたウェスタン・デジタルが出現した。そして、渡りに船とばかりに、買収に応じたものと思われる。
ではなぜウェスタン・デジタルやサンディスクは、ReRAMを推進したいのか。それは、ReRAMがストレージクラスメモリ(SCM)という新市場を生み出す可能性があるからである。このSCMとはDRAMとNANDの中間の性能を持つメモリで、ビッグデータを扱うデータセンタに適用すると、データ処理が格段に速くなるといわれている。そのSCMに、ReRAMがフィットすると、両社は踏んでいるわけだ。
2000年以降15年間NANDを共同生産してきた東芝とサンディスクが、決別することになるかもしれない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)