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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

マックも苦戦するフィリピンで、ココイチと一蘭とペッパーランチが人気を博している秘密

文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer
台湾のモスバーガー(「Wikipedia」より)
台湾のモスバーガー(「Wikipedia」より)

2019年6月、モスバーガーがフィリピンへの進出を公表した。こうした計画のもと、フィリピン1号店がマニラ首都圏オルティガスのロビンソン・ガレリアというショッピングセンターに20年1月、オープンすることになった。

 今回は、モスバーガーのフィリピンにおける成功のカギは何かを考えてみたい。

モスバーガーの海外進出

 モスバーガーは1972年に東京・成増に1号店をオープンさせ、19年11月末時点において国内1294店(加盟店1257店・直営店37店)、海外384店にまで成長している。海外進出に関しては、台湾への出店が1991年ともっとも古く、直近では271店舗にまで拡大している。進出している国は計8つの国および地域となっている。

『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』(大﨑孝徳/日本実業出版社)
『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』(大﨑孝徳/日本実業出版社)

※国名、進出した年、直近の店舗数
・シンガポール(1993年・40店)
・香港(2006年・7店)
・タイ(07年・8店)
・インドネシア(08年・4店)
・中国(10年・13店)
・オーストラリア(11年・6店)
・韓国(12年・15店)

 台湾やシンガポールにおいては順調にビジネスが推移しているが、その他の国および地域においては店舗数を見る限り、足踏み状態のように思われる。

 フィリピンへの進出は9カ国目となり、27年度までに50店舗という高い目標が掲げられている。フィリピンでの事業は、現地の大手小麦粉製粉会社ゼネラル・ミリング社のグループ会社で外食ビジネスを担うトーキョー・コーヒー・ホールディングス社と合弁会社を設立して実施される。合弁会社の株主構成はモスフードサービス35%、トーキョー・コーヒー・ホールディングス社65%となっている。トーキョー・コーヒー・ホールディングス社はフィリピンでUCCコーヒーショップを展開するなど、日本のビジネスに精通している。

 フィリピンにおけるパートナーとしてトーキョー・コーヒー・ホールディングス社を選んだ理由に関してモスフードサービスは、外食インフラ(教育、生産、物流)をすべて自社ですでに保有していること、日本人の食へのこだわりを十分に理解していること、大きなビジネス基盤があり安定した継続経営が可能なこと、という3点を挙げている。

マクドナルドが1位になれない市場

 アメリカに長く支配されてきたフィリピンにおいて、ハンバーガーは日本以上にメジャーな食べ物である。こうした市場を世界最大のハンバーガーチェーンであるアメリカのマクドナルドが見過ごすわけはなく、1981年に進出している。しかしながら、店舗数は600店ほどにとどまり、1位の座を獲得できていない。その理由はフィリピンのハンバーガーチェーンであるジョリビーが圧倒的な人気を博しているからである。ジョリビーはフィリピン華僑のトニー・タンが1975年にオープンした一軒のアイスクリーム店から始まり、いまや優に1000を超える店舗を展開している。

 人気の秘密は地元企業であるため、当然と言われればその通りだが、フィリピンの消費者を熟知し、徹底して彼女・彼らに寄り添っている点にあると思われる。まず、メニューに関しては、ハンバーガーやフライドポテトに加え、フライドチキン、ミートソース・スパゲティ、さらにはライスも提供されている。たとえば、筆者はまったく食べたいと思わないが、ハンバーガーのあの薄いパテにグレイビーソースがかけられ、ハンバーグステーキとして提供され、その横にライスが添えられている。パンとライスでは、ライスのほうが多く注文されているように思われる。

 また、スパゲティのミートソースは甘党の筆者ですら驚くべき甘さであるが、これがフィリピンにおける、いわゆる“おふくろの味だ”と日本通の友人から聞いたことがある。彼自身もかなり甘いと感じているが、そういうものだと納得しているということだろう。価格はもっとも安いハンバーガー、フライドポテト、ドリンクのセットで180円程度と、概ね日本のマクドナルドの半額程度である。さらに、家族の絆を大事にするフィリピンでは、家族や友人たちと頻繁にパーティーが行われるが、どの店舗にもそうしたパーティースペースがしっかりと確保されている。

 こうしたジョリビーに対して、マクドナルドもフライドチキン、ミートソース・スパゲティ、ライスを提供し、価格も同じレベルにするなど同質化戦略を展開しているが、いまだジョリビーとの間には大きな差がある状況である。

 外国人である筆者にとっては、味も価格もそれほど大差はないように思われるが、ジョリビーは“フィリピンの心”といったイメージがあるようだ。たとえば、ジョリビーのテレビCMはフィリピンで人気が高い。その内容は、苦労の末に成功して親孝行する、長い片思いが成就するなど、日本人の筆者からすれば昭和のイメージだが、こうしたヒューマンなものがこちらでは大いに受けるようだ。

フィリピンにおけるモスバーガーの戦略

 ここまでの記述を踏まえると、モスバーガーはフィリピン消費者のニーズに合わせて、フライドチキンやライスなども提供すべきであるとなりそうだが、それは得策ではないだろう。そもそも200円程度でモスバーガーがセットを提供できるわけはなく、仮にできたとしても、それはもはやモスバーガーとは呼べないはずだ。

 筆者の自宅近くのショッピングモールには、カレーハウスCoCo壱番屋、ラーメンの一蘭、さらにはペッパーランチまである。価格はむしろ日本よりも高く、筆者は利用しないが、フィリピン人には人気があり、概ね繁盛しているように見られる。

 こうした飲食店の共通点は、まず日本発であるということをしっかりとアピールして、質の高い味とサービスで現地の消費者を魅了している。

 モスバーガーの成功のカギはこうした点を、いかに徹底して実践できるかにあるのではないだろうか。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』 プレミアム商品やサービスを誰よりも知り尽くす気鋭のマーケティング研究者が、「マーケティング=高く売ること」という持論に基づき、高く売るための原理原則としてのマーケティングの基礎理論、その応用法、さらにはその裏を行く方法論を明快に整理して、かつ豊富な事例を交えて解説します。 amazon_associate_logo.jpg

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