小田急電鉄は昨年12月23日、新年度から新たな回数券制度「小田急チケット10(テン)」を導入すると発表した。回数券とは、ある区間のきっぷをあらかじめまとめ買いすることで、割引を受けられる乗車券のことだ。ICカード全盛の今でも、割引率の高い回数券を愛用する人は少なくない。
小田急が現在発行している回数券は、使用条件のない「普通回数券」、平日の10~16時と土休日(年末年始含む)に使える「時差回数券」、土休日に使える「土・休日割引回数券」の3種類。発売額はいずれも購入区間の「10円単位運賃(きっぷで利用する時の運賃)」の10倍で、有効期間は3カ月だ。発行枚数は「普通回数券」が11枚、「時差回数券」が12枚、「土・休日回数券」が14枚。つまり3種類とも発売額は同じながら、きっぷの発行枚数を変えることで、1枚当たりの割引率を変えているというわけだ。
4月1日から発売される新しい回数券「小田急チケット10」も、従来の普通回数券にあたる「小田急チケット10 レギュラー」、時差回数券にあたる「小田急チケット10 オフピーク」、土・休日割引回数券にあたる「小田急チケット10 ホリデー」の3種類からなるラインナップは変わらない。最大の変更点はこれまでとは逆に、いずれも10枚セットとした上で、発売額を変える方式に変更することだ。
発売額は区間・種類ごとに設定される。例えば130円区間の場合、「小田急チケット10 レギュラー」は1150円、「小田急チケット10 オフピーク」は1050円、「小田急チケット10 ホリデー」は900円だ。
購入する区間によって割引率は異なってくるが、130円区間の場合「普通回数券」の9%に対して「小田急チケット10 レギュラー」は12%、「時差回数券」の17%に対して「小田急チケット10 オフピーク」が19%、「土・休日割引回数券」の29%に対して「小田急チケット10 ホリデー」が31%と、割引率は全般的に引き上げられる(一部、割引率が変わらない区間もある)。ただし発行枚数が減る分、有効期間が従来の3カ月から2カ月に短縮される点には注意が必要だ。
「区間式」と「金額式」
ありそうでなかった新しい「回数券」はどのようにして生まれたのか。小田急電鉄に聞くと、回数券制度をわかりやすくした結果だという。
例えばこれまでの回数券では、一番利用率の高い「普通回数券」は11枚セットだったので、往復利用を前提にすると1枚余ってしまう。また、利用可能な日が限られる「土・休日割引回数券」は14枚も使いきれないという声もあった。そこで枚数を10枚に統一して、発売額で差をつける方式に変更することで、回数券制度そのものを「わかりやすく」したのだという。購入時に「割引額」が見えているほうがおトク感を感じるという点も大きいだろう。
あまり意識する機会はないかもしれないが、回数券制度は各社で大きく異なる。
回数券には大きく分けて「区間式」と「金額式」の2種類がある。区間式とは「A駅からB駅」のように決まった区間で発行されるきっぷで、JR各社と小田急を含む関東の多くの私鉄で採用されている。「A駅からB駅」の区間式回数券で乗車してC駅まで乗り越すと、定期券と同様、B駅からC駅まで乗り越し分の運賃精算が必要になる。
もうひとつの金額式は、「〇〇円区間」というように具体的な駅を指定せずに発行され、どの区間であっても、その金額分として使えるきっぷだ。こちらは乗り越した場合も差額の精算で済むので、外回りなどさまざまな区間を利用する人にとっては使い勝手がいい。関西の私鉄では一般的だが、関東では東急だけ、その他、東京メトロ、大阪メトロ、都営地下鉄など地下鉄で採用されている。
発売する回数券の種類にも各社の違いがある。大手私鉄の多くは小田急と同じように普通回数券、時差回数券、土・休日割引回数券を設定しているが、JRと都営地下鉄、西日本鉄道は普通回数券のみの設定。また名古屋鉄道のように、ICカード導入で一部の特殊な回数券を除き、回数券制度そのものを廃止してしまった社局もある。
その他、カード式回数券として発行したり、時差回数券と土・休日割引回数券を、半分の6枚つづり、7枚つづりで発売している事業者もある。定期券を買うほどではないが、毎月ある程度の回数を利用しているという人は、回数券の活用を考えてみてはいかがだろうか。
(文=枝久保達也/鉄道ライター)