シャープ再建のパートナーは台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業となるのか、官民ファンド・産業革新機構(以下、機構)となるのか――。2月29日までにシャープは鴻海の提案に答えを出すとしているが、高橋興三社長が率いるシャープの経営陣は本当に答えを出せるのか、私は疑っている。
1月末段階でシャープへの出資者として有力だったのは機構だった。機構は3000億円規模の出資をする代わりに、シャープに多額の融資を行っているみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行に対して債権の一部放棄を要求していた。また、現経営陣に対しても退陣を求めて、社員のリストラも必要だとしていた。
シャープの液晶部門を機構が出資するジャパンディスプレイに統合することにより、技術の海外流出を防ぐという大義名分を掲げた機構案が有利と見られていた。
オーナー経営者とサラリーマン社長
風向きを変えたのは、1月30日に鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長がシャープ本社を訪問して、大胆な提案をしたことだった。6000億円とも7000億円ともいわれる支援提案をし、これにより銀行の債権放棄は要請しない、とした。またリストラや経営陣の退陣も求めないとした(のちに「40歳以下の社員の雇用は守る」と後退)。
2月4日に開いた2015年度第3四半期決算の記者会見で、高橋社長は鴻海案を前向きに取り上げ「(鴻海案にが)一番リソースを掛けて検討している」と、一定の評価を見せた。
これを受けて、郭董事長は急遽再来日を果たし、2月5日にはシャープ本社で出資交渉を行った。8時間以上に及んだ交渉直後、郭董事長は記者団に「交渉は9割乗り越えた。あとは法的な問題だけだ」と合意は時間の問題だとして、合意文書で郭董事長と高橋社長がサインした部分まで示して自信を見せた。
ところが、その1時間後にシャープは「鴻海に優先交渉権を与えた事実はなく、2月29日まで交渉を続けるという合意をしただけだ」という発表を行った。これは、台湾人が大切にする「面子」を真っ向から潰すようなことだ。
2月5日の郭董事長とのサシの交渉で、高橋社長が最終決定を出せなかったことは理解できる。シャープは上場している株式会社なので、このような重大事案について取締役会での議決を経なければ、その場で高橋社長が結論を示すことは許されないからだ。