しかし、状況を考えてみれば、年商15兆円規模を誇る世界有数の企業グループの総帥が1週間の間に2度も来社し、機構が提案していた支援策よりも大幅に有利な案を示したのだ。「提案を感謝して、真摯に検討し前向きな結論を目指したい」というような対応が、なぜ取れなかったのか。
さらに2月12日にシャープは臨時取締役会を開き、機構とも出資など支援策の受け入れに向けた本格的な交渉に入ることを決めた。
鴻海と機構との間で高橋経営陣は右顧左眄(うこさべん)しているとしか思えない。婚約希望者をじらしているかぐや姫はそのうち月に上ってしまった。
2月5日のその時点で結論はおろか、方向も示すことができなかった高橋社長を含むシャープの経営陣が、2月29日までにきっぱりとした決断を出せるのか、大いに見ものである。シャープが今回もし鴻海を取り逃がしたら、高橋社長は「2016年ワースト経営者」の有力候補となる。現にその候補資格を有していると、多くの識者が見ているのではないか。
官民ファンドは手を引くべき
機構側がこの期に及んでまだ意欲を示しているのが不可解だ。機構案では、液晶部門のジャパンディスプレイとの統合に加え、家電事業は東芝の家電事業と統合するなど、シャープを解体して電機業界再編の目玉にする意向だ。それを機構側では「われわれが入れる資金は、成長投資にしか使わない」(志賀俊之会長兼CEO)としているが、統合により設備過剰の弱者連合になるなど、ダイナミックな成長は期待できない。
さらに、機構が出資するカネの色合いが問題となる。つまり、それはもとを正せば税金ではないか、という点だ。成長企業の育成という使命を掲げて設立された機構が、公的資金を使ってゾンビ企業を永らえさせるのが正しいことなのか。
機構案では、さらにシャープに貸し越している2銀行に多額の債権放棄を求めている。銀行といえども一事業会社だ。放漫経営を続けて苦境に陥った事業会社を救済するのに、なぜ銀行という民間金融機関が大きな損害を受けなければならないのか。「そんなことは必要がない」とする鴻海が出てきた以上、機構が従来のスキームを通そうとすることはまったく説得力がない。志賀会長は「引き下がったわけではない」としていると伝えられるが、お引き取りをいただいたほうがよい。