15年9月期中間決算でも310億円の特損を計上した。過去の特損と合わせて累計は1648億円に達した。1番船が納期を再々延期した代償がこれだ。2番船の納入遅れで、さらに損失は膨らむことが確実だ。
三菱重工は2月4日、16年3月期の業績見通しを下方修正した。連結純利益は、それまで1300億円(前期比18%増)を見込んでいたが、一転、18%減の900億円となる。大型客船部門で新たに221億円の特損が発生する。累計損失は5年間で1869億円になる。損失の累計は2隻の受注額の2倍近くに膨らむことになる。
下方修正したとはいえ、売上高は2.7%増の4兆1000億円と初の4兆円台に乗る。営業利益は1.3%増の3000億円と過去最高を更新する見込みだ。
祖業である造船事業は不振のシンボルに変わり果て、客船事業への復帰は高くついた。1、2番船の納入が済めば客船事業から撤退するとみられている。
不審火の原因を探る
三菱重工長崎造船所では、今年に入って船内で不審火が3回連続して起きた。世界から集まった数千人規模の労働者をゲートで一人ひとりチェックしているが、巨大な船に入ってしまえば、すべてのエリアをカメラで監視するのは不可能だ。「これだけ人数が多いと(火事の)原因究明もできない」との声が挙がり、現場の混乱は終息していない。
02年にも大型客船で火災が発生し、全体の4割が焼失している。その原因は溶接作業の熱だったが、今回は放火で、しかも犯人も動機もわかっていない。1番船がこのような状況で、年末にした2番船の納期も守れる保証はない。再延期すれば損失はさらに増える。
三菱重工は昨年秋、商船事業などを分社化。長崎造船所は実質6つの会社に分かれている。大型客船は三菱重工本体、今後の主力となるガス運搬船は新しくできた会社だ。さらに多数の関連・協力会社がひしめき合っている。
この分社が長崎造船所の一体感を失わせているのではないかとの懸念も生じている。宮永俊一社長の経営力・統率力(ガバナビリティ)が問われている。
(文=編集部)