7千円でも入手困難な日本酒を生んだ、中小酒造会社の「業界常識破り」…大幅コスト増を吸収
良い商品をつくる。そのために良い材料を使用する。結果として、顧客が許容できるレベルを超えた高価格での販売となるため、市場への投入を見送る。
こうした問題はさまざまな業種で日常的に起こっていることでしょう。それは当然競合企業でも生じている問題であり、自社においてクリアできれば明確な差別化を実現するチャンスになり得るはずです。
とりわけ、規模の経済で劣る中小企業にとって大企業との低価格競争は得策ではなく、差別化は極めて重要な問題といえるでしょう。今回は愛知県の山間に所在する日本酒メーカーである関谷醸造を例に、中小企業における高く売る差別化戦略について考えてみたいと思います。
日本酒業界の現在
2月の日本酒の販売シェア(金額ベース)を見ると、白鶴酒造の「まる」がトップで4.0%獲得しています。同商品は2リットルの紙パックで平均価格901.8円、1リットル当たりに換算すると約450円です。2位は月桂冠の「つき」でシェアは3.2%、同様に1リットル当たりの平均価格は約445円です。
以下、トップ10すべての商品は紙パックで、容量は2~3リットルで1リットル当たりの平均価格は400~450円程度となっています。メーカーに注目すると、白鶴酒造、月桂冠、宝酒造、黄桜、菊正宗酒造という全国的に有名な大手5社によって占められています。
一方、日本酒造組合中央会には1500を超える日本酒メーカーが加盟しており、そのほとんどは中小メーカーです。こうした中小メーカーにおいて、紙パック製品のための生産設備、豊富な営業スタッフ、マス広告のための資金などを用意することは難しく、その多くが厳しい経営状況に置かれています。
中小メーカーが豊富な経営資源を有する大手メーカーと同質的な競争を行っても、勝算は皆無に等しいはずです。近年、知名度を増してきている大吟醸は、大手メーカーに対する中小メーカーの高く売る差別化戦略とも捉えることができるでしょう。