ペッパーフードサービスが展開するステーキチェーン「いきなり!ステーキ」の業績悪化が止まらない。2月の既存店売上高は、前年同月比38.7%減と大幅マイナスだった。30%超のマイナスが7カ月も続いている。前年割れは2018年4月から23カ月連続となる。
2月の既存店売上高を発表した3月13日、20年12月期の業績予想を取り下げ、未定とすることも合わせて発表した。従来予想は連結売上高が614億円、営業利益が5億8200万円、最終利益が2300万円だった。新型コロナウイルスの感染拡大で外食を控える人が増えており、業績予想の算定が困難になったためとしている。
同社は19年12月期まで2期連続で最終赤字を計上し、営業損益は06年の上場以来初の赤字を計上するなど苦戦が続いている。不採算店を閉鎖するなど経営再建を進めており、20年中に74店を閉店する考えだ。新規出店は2店にとどまる見通し。
経営再建において特に懸念されるのが、債務超過に陥ることだ。19年末時点で自己資本比率は2%まで低下している。こうしたことから、19年12月に69億円の調達を想定した行使価格修正条項付きの新株予約権を発行した。だが、2月末時点で全体の6割強が行使されずに残っている。3月13 日の終値は506円で、行使の下限価格である666円を下回っている。予約権が行使されず、予定額を調達できない可能性がある。
今回の新株予約権の発行による資金調達は株価に応じて調達額が変化するため、十分な資金を調達するには株価上昇が欠かせない。また、自己資本の毀損を避けるには、利益を出すことが求められる。この2つを実現するには、誰もが納得できる成長戦略を描き、早期に販売を上向かせる必要がある。当たり前の話だが、会社の将来性に対する期待が高まらなければ株価は上がらないし、販売を上向かせることができなければ利益を確保することはできない。しかし、同社から出てくる話はどれも期待外れで、これらの実現が危ぶまれている。
すかいらーく創業者の横川竟氏に切り捨てられる
特に期待外れだったのが、3月12日放送のテレビ番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)で、一瀬邦夫社長が披露した経営観だ。同氏は番組内でさまざまな意見を述べていたが、それらに対してネット上を中心に「自己中経営だから客離れが起きている」といった批判の声が多数上がった。
同番組では、いきなりステーキが販売不振に陥ったことを取り上げた。その理由などについて一瀬氏と、すかいらーく創業者の横川竟氏が討論している。全体を通して、ネット上では、横川氏の経営観に多くの称賛の声が上がった一方、一瀬氏の経営観には疑問の声が相次いだ。昨年12月に一瀬氏が顧客に来店を呼びかける張り紙を掲出したことが話題に上ると、横川氏は「僕個人の趣味で言うと、僕は書きません。商売というのは、これを商品で表現することです」と、一瀬氏の手法を批判した。
商売の本質についても話が及び、一瀬氏は「商売というのは、自分がおいしいと思うものをお客に食べてほしい」と持論を展開。これに対し横川氏は「自分のおいしいものが相手もおいしいとは限らないという前提で、相手の口に合わせた味と素材の組み合わせをした。基本は、お客が求めているものを売らない限り売れない」と切り返した。
いきなりステーキは「値段が高め」という街の声を紹介する場面もあったが、それに対して一瀬氏は「定価をグラムで割ると単価が出る。その単価でうちは勝負している。それを見ると明確にうちのほうが安い」と主張。それに対し横川氏は「肉以外の価値が少ないからと言っておきましょうか」と切り捨てた。
こうしたやりとりに対してネット上では「顧客本位の横川氏に対し、一瀬氏は自分本位」といった一瀬氏の経営観に否定的な感想が多数上がった。
この放送を見る限り、いきなりステーキが今後、顧客本位で経営を進めていくのか疑問視せざるを得ない。もしも、これからも自分本位の思考で経営が進められるようであれば、経営再建は危ういだろう。
いきなり!ステーキの接客レベル
特に懸念されるのが、「接客サービス」が改善されないことだ。いきなりステーキが不振に陥った理由として、価格の高さや自社の店舗同士での顧客の奪い合いが挙げられることが少なくない。それはそれで核心をついているのだが、忘れがちになっているのがいきなりステーキの接客サービスのまずさだ。
筆者はいきなりステーキに何度も足を運んでいるが、接客サービスが良いと思ったことは1度もない。ネット上の口コミを確認しても、「店員の態度が悪すぎる」といった接客サービスのまずさを指摘する声が少なくない。
これは、大量出店による店舗網の急拡大が大きな原因となっている。既存店売上高の前年割れが始まった18年は1年間で202店も出しているが、こうした急拡大のなかで従業員教育が追いつかず、接客サービスが後回しになってしまっているのだ。
接客サービスの良さは、リピーターを増やすために欠かせない。だが、いきなりステーキの接客サービスはお世辞にも良いとはいえない。いきなりステーキに対して「価格が高い」という街の声があることについて横川氏は「肉以外の価値が少ない」と述べたことは先に触れたが、ここでいう「価値」には接客サービスも含まれているだろう。
こうしたことが起きているのは、いきなりステーキに「顧客本位」の思考が乏しいためだ。客はおいしいステーキを食べさえすれば満足するわけではない。“快適な空間”でおいしいステーキを食べることができて、初めて満足できるのだ。快適な空間を提供するには、高いレベルの接客サービスが求められる。こうした顧客ニーズを理解できていない店が、長期にわたって繁盛するわけはないのだが、それを理解するには顧客本位の思考が不可欠だ。
横川氏は番組で出店のあり方について「ある時、人口が止まって店を出す所がなくなる。止まった時に、価値づくりをしなかった弊害が出てくるんです」と述べているが、これは、いきなりステーキが復活を果たす上で重要な指摘だ。店の価値づくりにおいて接客サービスは重要な要素となる。だが、いきなりステーキは十分な接客サービスの品質を保つことができていない状態で大量出店をしてしまった。それにより接客サービスの品質はどんどん下がっていった。その弊害が“客離れ”というかたちで出てしまっているのだ。このことを正しく認識し、改善する必要があるだろう。
ところで、いきなりステーキは客足を回復させるため、「原点回帰」というかたちで主力商品「リブロースステーキ」を通常1グラム6.9円(税別)のところ、期間限定だが一部店舗で13年の創業時の価格5円に下げて提供する試みをしている。適正な価格を把握するためにも、これは良い取り組みだ。 そして、これに加えて「接客業の原点回帰」も行い、接客サービス力を高めていくことも必要だろう。
いきなりステーキは「顧客本位」と「原点回帰」による“価値づくり”が求められているといえそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)