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丸紅、過去最大の赤字に転落…「コロナ不況」強調の裏でM&Aの巨額減損計上

文=有森隆/ジャーナリスト
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丸紅大阪本社ビル(「Wikipedia」より/J o)

 3月26日、総合商社株が一斉に売られた。その後も4営業日連続で軒並み下げた。業界5位の丸紅が2020年3月期の利益予想を3900億円下方修正し、連結最終損益が1900億円の赤字(2019年3月期2308億円黒字)に転落。従来の黒字予想(前期比13%減の2000億円)から一転して過去最大の赤字になると発表したのがきっかけだった。最終赤字は02年3月期以来18年ぶりのことだ。

 3月25日の会見で丸紅の柿木真澄社長は「新型コロナウイルスによる影響は金融危機(リーマン・ショック)の時より多岐にわたる。短期で影響が終息するとは考えられず、今後のビジネス環境の悪化を織り込んだ」と巨額赤字転落の理由を述べた。

 見る人が見ればわかるのだが、コロナ禍を利用して、過去の無理筋だったM&Aの“落とし前”を付けたわけだ。柿木・新社長が社長になる原動力となった電力・インフラ事業でも減損を計上したのが最大のニュースかもしれない。下方修正する3900億円の内訳は資源関連が2050億円。最も大きいのは石油・ガスの開発事業で1450億円。米国メキシコ湾の油田事業で800億円、英領北海における油田事業で650億円を計上する。「(この減損で)将来の減損の懸念を払拭した」(柿木社長)。確かに油田・ガス事業は柿木社長の責任ではない。だから、心おきなく、損失を落とすことができた。

 問題はここから。穀物事業でも市況低迷を受けて1000億円の減損を計上する。2013年に買収した米穀物大手ガビロン関連で800億円。約1000億円あったガビロンの「のれん代」の評価は、とうとうゼロになった。米国の穀物輸出分野で200億円を計上する。米中貿易戦争の荒波にもまれ、“穀物メジャー”を目指した丸紅は、あえなく沈没してしまった。

 ガビロンを買収した時の丸紅の経営陣の高揚ぶりといったらなかった。ガビロン買収を最後決断したトップは、まったく責任を取っていない。「多額の役員報酬をもらったのだから、損失の一部でもいいから会社に補填すべきではないのか」(丸紅の中堅社員)の嘆きの声が響く。柿木社長が主導した海外電力事業やインフラ分野で400億円の減損を計上することを日本経済新聞は書かなかった。日経産業新聞で報じたからといってアリバイ証明にはならない。経済記者のこうした優しさ、いや“忖度”が経営者をダメにする。

 チリで展開している銅事業は価格下落が直撃、600億円の減損を計上する。資源価格の今後の見通しについて柿木社長は、「石油輸出国機構(OPEC)を中心にした協調体制は崩れた。自国優先主義となるなか、先進国を中心に原油の需要は減退していく」と述べ、「原油を取り巻く市場環境の低迷は長期化する」との見通しを示した。

 2021年3月期については、一過性の影響を除いた純利益の予想を1800億円とした。新型コロナの影響は見通せず、市場環境の低迷は続くものの、資源価格は一定程度の回復を見込んでいる、とした。柿木社長は総合商社の決算が2020年3月期より2021年同期のほうが厳しくなるとみているアナリストが多いことをご存じないのだろうか。2021年の最終利益1800億円は、おそらく投資家をミスリードすることになる。これだけの赤字を出すのだから21年同期の利益は「未定」とするのが、上場企業のトップとしての見識だと思うのだが、いかに。

 丸紅は2000年後半から資源関連の大型投資に踏み込み、15年3月期、16年3月期と2期連続で、資源で各1000億円の損失を計上してきた。資源の比重は三井物産、三菱商事より小さいが、資源価格の下落が業績悪化に連結するのが丸紅の決算の特徴。打たれ弱いのである。

総合商社株が一斉に下落

 三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、住友商事も対岸の火事として静観するわけにはいかない。対岸の火事なら、丸紅の株価だけ下がればいいわけだが、4月2日まで一斉に安くなった。この過程で三菱商事と伊藤忠の株価が急接近。

「三菱商事は昨年5月に自社株買い(1億2000万株)のうち1億1500万株を今年5月に消却すると発表している。この通り実行すれば、時価総額で伊藤忠がトップに立つ可能性が高い」(外資系証券会社の商社担当アナリスト)

 三菱商事は20年3月期の原油価格の期中平均を1バレル=65ドルと想定している。現下の原油価格は1バレル20ドル以下(丸紅は同15~18ドルまで下がったとしていた)。計算しやすくするために同20ドルとしても7割(45ドル)安だ。1ドル下がると純利益は25億円目減りするといわれているから、45ドル安だと単純計算で年間1125億円の利益が吹っ飛ぶ計算だ。20年3月期決算はこのうちの3カ月分が影響するから281億円強となる。

 すでに今期の最終利益を6000億円から5200億円に下方修正しているが、三菱自動車株の急激な下落で数百億円の損失計上が必要になる。機械に強いことが裏目に出ている。さらにローソンの株価も30%以上安くなっており、どうするのか。売り上げに占める資源の割合が相対的に高い三菱商事の最終利益は、最新の市場コンセンサス(最終利益4700億円)を「1割~1割5分下回る」(会社側に迎合していない別の商社担当のアナリスト)との厳しい指摘もある。もし、この通りなら4230億円~3995億円になる可能性が出てくる。4000億円の攻防か。

 丸紅のように米中間の穀物でも減損計上することになれば、最終利益は3000億円台半ばまで落ちても不思議ではない。大三菱商事のことだから、かつてのように赤字転落にはならないと思うが、銅鉱山など資源関連でどれだけロスが出るかも不明である。

三井物産「減損等損失を認識する可能性がある」

 三井物産は20年3月期の想定原油価格は68ドル。1ドル下がると最終利益で31億円の影響が出るとされるから、単純計算で年間で1488億円の減損。1~3月分だけで372億円の損失が出る勘定だ。三井物産は「資源の物産」と呼ばれるほど資源のウエイトが高い。利益の過半を資源が稼いでいた時期が長い。どれだけ減損額が膨らむかわからない。チリの銅鉱山もある。会社側の2020年3月期の最終利益の予想は4500億円だが、3000億円の目減りで1500億円。4000億円のロスだと500億円に急減することになるが、どういう決算をするのだろうか。丸紅のように赤字に転落することはないだろうが厳しい決算が予想される、と筆者は見立てていた。

 ところが三井物産は3月27日、「当期利益(4500億円の予想)に対して500億円から700億円程度の減損等損失を認識する可能性がある」と発表した。変な日本語だが、それは置く。それよりなにより、こんな発表をすると投資家(株主)を迷わすことになりはしないか。こんな小さな減損で本当に収まるのか。鉱山の権益や持ち株を売って帳尻を合わせようとしているのなら、やめておきなさいと言いたい。コロナ禍は決算をまたぐことが確実視されているからだ。本当の勝負は21年3月期決算になる。22年同期も安閑としてはいられない。

住友商事、20年3月期の連結最終利益の見通しを下方修正

 住友商事は2020年3月期の連結最終利益の見通しを一度下方修正して2900億円。やらないだろうけれど、21年3月期まで見渡して、前倒しして大幅な減損を断行すれば、利益水準はかなり落ちる。

 なお、住商は3月26日、「新型コロナウイルスに関する事業会社の対応についてのお知らせ(銀・亜鉛・鉛およびニッケル事業)」と題するニュースリリースを出した。「ボリビア多民族国のサンクリストバル銀・亜鉛・鉛事業、およびマダガスカル共和国のアンバトビーニッケル事業の操業を一時停止することをお知らせします」とした。ボリビアおよびマダガスカルでは終日ないし夜間の外出禁止令が発令されており、公共の交通機関も停止されている。従業員および家族の安全確保、また操業に必要な人員の移動手段の確保や物流が停止することによる影響を考慮し、発電所など安全上稼働が必要な設備以外の操業を一時停止したというのだ。

「2020年3月期の業績、ならびに2021年3月期業績への影響については現在、精査中」とした。株式市場では「次に業績を下方修正するのが住商。その次が三菱商事」と取り沙汰されている。事実、住商は第2クオーターの決算で業績を下方修正した時も、マダガスカル・ニッケル事業と豪州の石炭事業の不振を理由に挙げていた。

 その住商。4月8日、20年3月期の連結純利益が「1000億円程度下振れする可能性がある」と発表した。具体的な下方修正をする金額は精査中としたが、1000億円減額した場合、最終利益は1900億円となる。19年3月期比41%減だ。「この程度の減額で済むのか」と市場からは厳しい視線が注がれている。

伊藤忠商事、減損に備えて300億円の余裕

 問題は三菱商事と商社リーグの最終利益でトップ争いをしている伊藤忠商事だ。連結最終利益の予想は5000億円。減損に備えて300億円の余裕を持っているが、中国への投資、具体的にはCITIC(中国中信集団、6000億円を投下)について、先々どう見ているのだろうか。3月31日時点で、伊藤忠に好意的なアナリストは「連結最終利益を5000億円(据え置き)とみている」ようだが、そうは問屋が卸すまい。

 なぜなら、18年11月2日、「10%を出資する中国国有企業、中国中信集団(CITIC)の株式を減損処理して、1433億円の損失を計上した」と発表しているからだ。この時は、ユニー・ファミリーマートホールディングス(当時)の子会社化に伴う株式評価益が1412億円発生したため、CITICの減損を相殺する格好になった。タイのチャロン・ポカパン(CP)グループとも資本・業務提携しており、CPワールドワイド・インベストメントが伊藤忠の株式を4%保有する実質的な筆頭株主だ(1~3位は日本マスター信託口や自社・自社株口である)。敵対的TOBを敢行したデサントの株価も急落しているし、ファミリーマートの株価も安い。無傷であるはずがない。

 商社筋によると21年3月期のアナリストコンセンサスによる最終利益は、「伊藤忠5000億円、三菱商事4900億円」だという。「三菱商事は資源価格次第で、コンセンサス(4900億円)を2~3割下回る」と見る向きがある。つまり、3920億円~3430億円になるということだ。伊藤忠(5000億円)も2割ダウンなら4000億円。丸紅の21年3月期の見通しが、かなり甘いことをトップ2商社の決算の推移が浮き彫りにしてくれる。

 コロナ恐慌に対する経営トップの洞察力である。コロナウイルスはリーマン・ショックや東日本大震災・東京電力福島第1原発のメルトダウンとはまったく異質の災禍であるとの冷徹な認識があれば、ズバッと損切りをするだろう。100年前に世界を襲ったスペイン風邪は前流行と後流行で3年近く猛威を振るったという記録が残っている。

 総合商社の業績は2020年4~6月期が当面のボトムになるのか。いや、同年7~9月期にズレ込む可能性が高い。三井物産や丸紅は20年3月期の配当を据え置いたが、配当を据え置いたからといって、それが株価対策になると考えるのは早計である。赤字に転落したら無配にするくらいの英断こそが、今、総合商社の経営トップに求められているのである。

 投資家は目先の配当金よりも経営者の将来に向けての備え、目配りを凝視している。20年3月期決算は来期以降の最悪の事態を想定して、「落とせるものをどれだけ落とすかの競争になる」(会社側に迎合していないアナリスト)。決算はトップの決断となることは珍しくないが、20年3月期ほど経営トップの決断の質が問われることはないだろう。この決算の姿勢が、先々の企業の存亡を決める、といったら、おおげさか。

 いずれにしても、トップの状況判断力、決断力・遂行力が問われている。予知力が最も大切かもしれない。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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