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垣田達哉「もうダマされない」

コロナ禍下、バター・チーズ・キャノーラ油原料の輸入激減…価格高騰の懸念も

文=垣田達哉/消費者問題研究所代表
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「photo AC」より

 4月15日付本連載記事『食料不足始まる兆候』で指摘した小麦以外にも、輸入が大幅に減少した食料品がいくつもある。

 乳製品では、バターの輸入が激減している。今年1~2月累計で、数量ベースで前年比▲39.4%、金額ベースで▲40.1%である。バターの輸入先は、昨年も今年も第1位のニュージーランドが約半分を占めている。以下、昨年は第2位はオランダ、第3位はフランスだったが、今年はフランス、ドイツとなっている。どの国からの輸入も減少しているが、第1位のニュージーランドが昨年の約50%減となっている。バターの自給率は約76%なので、すぐに不足するわけではない。ただし、輸入の2桁減が続くようであれば、国内在庫も手薄になり市場価格が高騰する可能性がある。

 バターより深刻になる可能性があるのはチーズだ。チーズの自給率は約14%(農水省畜産部調べ:ナチュラルチーズベースの消費量に対する国産割合)とバターに比べてかなり低い。日本で人気のプロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱して溶かし、乳化剤を加えて成型したものだ。ナチュラルチーズのほうがプロセスチーズより消費量は多いが、日本でプロセスチーズに加工するため、ナチュラルチーズを大量に輸入している。

 輸入先の第1位は豪州、以下ニュージーランド、米国と続く。米国からの今年の1月~2月累計の輸入量は、前年比約10%増(数量ベース)だが、豪州(同約20%減)とニュージーランド(同約7%減)の減少幅が大きい。豪州とニュージーランドも、米国ほど感染者数は多くはないが、新型コロナウイルスの影響は甚大だ。両国の輸出産業への影響度合いはわからないが、終息が長引けば、当然日本への影響も出てくるだろう。

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植物性油脂原料

 植物性油脂原料でも、輸入量が激減した品目がある。調理用油では、一番使用されているのが菜種油(キャノーラ油)だが、自給率は1%未満でほぼ0に等しい。その採油用菜種の輸入が、今年1~2月累計では数量ベースで前年比24.8%減と激減している。しかも採油用菜種の輸入先は、輸入総量30万9723トン(1月~2月累計)の99%がカナダ(同30万6198トン)である。カナダからの輸入が止まれば、日本の菜種油は全滅に近い。

 一方、菜種油そのものも輸入している。採油用の菜種の輸入が少ないとわかっていたようで、菜種油そのものの輸入は、数量ベースで前年比251.6%(1月~2月累計)と倍増している。ただし、2カ月間で8195トンと採油用の30分の1以下の数量であり、ほとんどがカナダからの輸入だ。やはりカナダ頼りの菜種油だといえる。

 農水省はホームページで食料供給情報を公表しているが、そのなかには家庭用調理油については一切触れられていない。店頭在庫が不足していないので、情報が提供されていないのだろうが、自給率が0に等しいので非常に心配な食料品の一つだ。

 オリーブ油は、必需品ということもないだろうが、非常に人気の高い油である。1月~2月累計では、減少幅が数量ベースで1桁なので、今のところ影響は少ないだろう。しかし、輸入先は、第1位がスペインで全体の約65%(数量ベース)、第2位がイタリアで約30%、第3位がトルコである。どの国も、新型コロナウイルスの影響は甚大な国々だ。今後、従来通りの輸入量が確保できるかどうか非常に心配な品目である。

 家畜用飼料のとうもろこしやホエイも2桁減少している。輸入減少が長引けば、国産の牛肉、豚肉、鶏肉の飼育にも大きな影響が出る。輸入の依存度が高いのは食料品だけではない。新型コロナウイルスの終息が長引けば長引くほど、日本の食全般に大きな影響が出るのは間違いない。

すでに米国では消費財の価格が大幅に上昇

 農水省は食料供給情報を公表し、すべての食料品で品不足は起きないとしているが、輸入先の現状については一切触れていない。ブルームバーグは、4月16日に配信した記事の中で、米国の実情を次のように紹介している。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が15日に公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)は「サプライチェーンの混乱と需要構成のシフトにより、運輸などの基本的サービスや一部の農産物、消費財の価格が大幅に上昇した」と報告した。

 当然のことだが、米国でもサプライチェーン(原材料の調達から販売まで)が混乱している。EU各国も、世界中のほとんどの国の経済は、大なり小なり混乱状態であることに間違いない。そうした状況のなかで、各国の輸出産業にも混乱は起きているはずだ。本当に、従来通り食料品の確保ができるのだろうか。国内在庫が十分ある間は問題ないだろうが、ある日突然「○○は、輸入が十分できないので品不足になります」と言われても消費者は困るだけである。

 しかも、日本でも緊急事態宣言が全国を対象とすることになった。国外だけでなく、国内の食料品の生産・製造体制は問題ないのだろうか。「接触を8割減らせ」となれば、食料品の生産・製造・物流体制にも大きな影響が出ることは間違いない。

 4月10日付本連載記事でも述べたが、東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の約3600万人の胃袋を満たすことは容易ではない。ニューヨーク都市圏は約1900万人、ロンドン都市圏は約1500万人、パリ都市圏は約1200万人だ。

 東京都市圏はニューヨークの2倍近い人口なのだ。人と人の接触を8割減らせば、東京都市圏の食は回らないだろう。食べ物がなければ人は生きていけない。医療崩壊の前に食料崩壊を防ぐことは最優先課題である。

(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應義塾大学商学部卒業。食品問題のプロフェッショナル。放射能汚染、中国食品、O157、鳥インフルエンザ問題などの食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで活躍する。『ビートたけしのTVタックル』『世界一受けたい授業』『クローズアップ現代』など、テレビでもおなじみの食の安全の探求者。新刊『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)、『選ぶならこっち!』(WAVE出版)、『買ってはいけない4~7』(金曜日)など著書多数。

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