カラオケのジョイサウンド、なぜあの自由すぎるミシン会社が開発?常識に逆行の変身経営
このなかで、いち早く“脱・ミシン”を進めたのがブラザーで、戦後の復興期の54年に編み機を開発。その後「欧文ポータブルタイプライター」を開発し、61年から米国市場に投入して急成長させた。日本でミシン会社のイメージが強いように、今でも欧米ではタイプライターの会社というイメージが強い。
なぜ、ブラザーは「ミシン一本足打法」から脱却できたのだろうか。07年6月から同社のかじ取りを担う小池利和社長に直接聞いた。
「まず大きいのは社風でしょうね。昔からブラザーは自由闊達な雰囲気で、社員の提案を受け入れて新事業を進めさせてくれる気風がありました。現在の主力となったプリンターも、誕生のきっかけは80年代初め、ひとりの先輩社員のひらめきにありました。『タイプライターからキーボードを切り取ってインタフェースをつければプリンターとなる。これを商品化すれば売れるはずだ』と言い出し、『それはいい』と周囲も同調して事業化に進んだのです」
当時小池氏は26歳で、その新作プリンターを売るために米国に渡り奮闘し、一時は200億円の事業に成長させた。同氏の滞米生活は1981年から2005年まで都合23年半に及んだ。こう説明すると、語学エリートの成功物語のようだが、実は同氏は渡米前まで英語が大の苦手だった。それでも「オレが売ってやる」と手を挙げて米国駐在員となったのだ。
「技術面でいえば、ブラザーはずば抜けた技術に頼るよりも一定の技術を組み合わせて商品化し、それをいち早く市場に展開するのが持ち味です。かつて主力だったタイプライターも、ミシンで培った切削加工技術や編み機などで培ったプレス加工技術から生まれました。当時70ドルだった米国の競合商品に対して、ブラザーは同等の機能の商品を50ドルで販売したため、受注が拡大していったのです」(同)
同等の機能で競合よりも安く販売する手法は、現在のプリンターにも生かされている。
「選択と集中」が流行するなか、多角化路線を継続
90年代の企業経営は「選択と集中」がはやった。「経営資源の特化」という意味では、現在も同じような流れにある。たとえば、サントリーホールディングスは飲料事業に特化するため、保有しているファーストキッチンの全株式をウェンディーズ・ジャパンに売却することを6月1日に発表した。
ブラザーの経営はこれとは違う。多角化を続けることでリスクを少なくする手法を取っている。