カラオケのジョイサウンド、なぜあの自由すぎるミシン会社が開発?常識に逆行の変身経営
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
最近は「自分の仕事が将来、IT機器やロボットに取って代わられるかもしれない」と不安に感じる人が多く、ビジネス記事でも「10年後に生き残る職業」といった論調が目立つ。だが、生き残り競争は個人だけの問題ではなく、企業も同じだろう。大企業であっても将来の保証はなく、かつて優良企業だった東芝やシャープの苦境はご存じのとおりだ。歴史や伝統が存在感を発揮する時代でもない。
そこで今回は、1908年創業のブラザー工業の事例を紹介してみたい。上記2社に比べて企業規模は小さいが業績は手堅く、2015年度は連結売上高7458億8800万円(前年比5.5%増)、営業利益472億7600万円(同17.8%減)、経常利益486億1100万円(同5.7%減)と安定した数字を残している。増収減益なのは、為替のマイナス、大型買収によるのれん償却費の負担が大きな理由だ。この大型買収については後述する。
ブラザーといえばミシンのイメージが強い。ミシンは、昔は嫁入り道具のひとつとして各家庭にあったが、現在はミシンを保有していない家庭も増えた。そんな国内ミシンメーカーから脱皮して売上高の約8割を海外で稼ぐようになり、連結で7000億円企業となった。今回は少し視点を広げて、時代とともに「社の人気商品を変えた事例」として、同社の変身術を分析してみたい。
「ミシン一本足打法」から脱却
現在、ブラザーの主力事業はオフィスや家庭向けプリンターや複合機で、国内では「プリビオ」や「ジャスティオ」のブランドで展開し、キヤノン、エプソンに次ぐ業界3位メーカーだ。意外な事業も扱っており、カラオケで収録曲数が多い機種として人気の「JOYSOUND(ジョイサウンド)」は、ブラザーの子会社であるエクシングが手がけている。
かつてミシンは花形産業だった。現在もJUKI(15年12月期の連結売上高1128億6500万円)、蛇の目ミシン工業(16年3月期の連結売上高426億6100万円)などは健在で、ブラザーとともにミシンを製造しているが、各社の事業構造は大きく変わった。ちなみに1970年代に国内ミシンメーカー首位だったリッカーは84年に倒産している。