シェアリング・エコノミーが、私たちの生活にどんどん浸透している。
総務省のHPによれば、「シェアリング・エコノミー」とは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。
自動車関係ではレンタカーの会社のカーシェアサービスや配車アプリサービスの「Uber(ウーバー)」のライドシェアがあり、宿泊サービスでは民泊の「Airbnd(エアビーアンドビー)」が「暮らすように泊まれる」として一般的になっている。
今回は、トヨタ自動車からの出資を受けたことにより注目度が高まっている、ウーバーについてより深く掘り下げてみる。
オープンなプラットフォーム
そもそも、ウーバーは何を提供しているかを定義しなければならない。ウーバーは、レンタカーの延長でもなければ、カーシェアサービスでもない。アプリを活用した「ライドシェアができる」タクシーの配車サービスなのだ。この、ライドシェアと配車アプリサービスの合体をしたという点に、ウーバー最大の特徴がある。
この画期的な仕組みそのものが、シェアリング・エコノミーの普及に伴って、市場そのものを大きくすることの一助になっている。
ウーバーを筆頭とするライドシェア、配車サービスの各社には、トヨタをはじめとした自動車メーカーやIT企業など、錚々たる大企業がこぞって出資をしているのだ。
以前に本連載記事でも紹介したように、ウーバーがアメリカで普及した最大の理由は、その利便性にある。米ロサンゼルス規模の都市であれば、どこにいても、数分以内で来てくれる。さらに、どんなドライバーがどんな車を運転してきてくれるのかも事前にわかるので、安心感がある。
そして何より、多少長い距離を乗ったとしても通常のタクシーよりも相対的に安価だし、チップも含めて事前登録してあるクレジットカードでの支払いで済むため、現金を用意する必要もない。
この利便性に加えて、さらに自分以外の見知らぬ人が途中で乗ることで、移動料金を割り勘にできる。これがいわゆるライドシェアリングなのだが、これにより、支払うお金もひとりで乗るよりは少なくて済む。
まさに、いつでも自由に乗り降りできる、移動するオープンなプラットフォームだといえる。
世界的に普及開始
このようなムーブメントは、アメリカだけではない。ベトナムでは自動車ドライバーに向けて、車両購入用に運転者のためのローンを、ウーバーと金融機関が共同で開発しているという。これにより、ベトナムではさらにウーバーが普及することも予測される。
移動手段としてオートバイが主流のインドネシアでは、バイクタクシーの配車アプリサービスもできているようだ。また、ベトナムでもバイクタクシーの需要が拡大しているなかで、ほかの仕事より安定した給料がもらえるということもあり、ライダーの間でも評判になっているとのことだ。
日本での「ウーバーのこれから」
では、日本での「ウーバーのこれから」はどうだろうか?
まず、ウーバーにとって規制の壁は低くない。日本では、自家用車による人の有償輸送は原則、認められていない。このハードルの高さがほかの黒船、たとえばアマゾンやグーグルが日本に入ってきた時との大きな違いである。したがって、規制の壁を超えることに大きな労力が必要であろう。
しかし、2000年初頭に筆者がアマゾンに在籍していた時に感じたのは、「企業として顧客の利便性を追求するということは、最終的に絶大な顧客ロイヤリティーを生む」という事実だった。利用者増が先で、規制緩和は後からついてくるものだと筆者は今でも信じている。言い方を変えれば、「利便性の追求があれば恐れることはない」というエールを送りたい。
日本での普及の鍵
では、ウーバーが日本で普及するために何をすべきなのか?
大局的にみれば、もちろん行政や業界団体への働きかけが必要である。しかし、同時にさらなる利便性を追求することが必須だと思っている。
それは、顧客の立場に立った、「細かいニーズ解消」の積み重ねに努めることである。それこそが、タクシーとの大きな差別化ポイントになる。
たとえば、インドにおけるウーバーは、地図そのものの質が高くないため、地図アプリを使っても目的地にうまくたどり着けないことが多い。パナマでもドライバーが英語に不慣れなことがあり、地図でなく口頭で伝えた場合、運転手が慣れている別のホテルに行ってしまったという事例もあるという。
これは一見するとウーバーならではのミステイクに見えるが、通常のタクシーサービスでも起こりうることだ。
顧客が感じる価値は、顧客が得る「利益」と、顧客が失う「犠牲」のギャップにある。利益(=便利なことや価格の安さ)を最大化しつつ、犠牲(=コミュニケーション能力の低さや割増料金)を極力なくさなければならない。
幸い、ほかの国や地域ですでに起こっているこのような先行事例は、ウーバーの日本進出にとって参考になるに違いない。
導入期のアマゾンも同じだったが、ビジネスやマーケティングに王道はない。神は細部に宿る。小さい努力の積み重ねが大切なのだ。顧客視点に立ち、利用者の気持ちでサービスを改善していくことこそ、ウーバーの日本での成功の鍵である。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)