ビジネスジャーナル > 企業ニュース > なぜ日本企業はM&Aで失敗?
NEW
手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授
なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法の画像1『日本電産 永守イズムの挑戦』(日本経済新聞社=編)

 8月2日、日本電産は米電機大手エマソン・エレクトリック(ミズーリ州)の産業用モーターや発電機などの事業を買収することで合意したと発表しました。買収額は12億ドル(約1200億円)で同社のM&Aとしては過去最大となります。同社はM&Aを経営の柱の一つとしており、同社のホームページを見ると48件のM&Aが紹介されています。

 永守重信CEO(最高経営責任者)のイメージもあり、かなり積極的な買い手という印象を持つ読者の方も多いかもしれませんが、実は手堅いM&Aを実践しています。実際、大型案件に限っていえば、今回の案件は14年末に買収合意した独自動車用ポンプ大手GPM以来、1年半ぶりです。チャンスをじっと待てるのが日本電産の強みなのです。

 そこで今回は、日本電産のケースを中心に成功するM&Aのポイントを確認していきましょう。

M&Aの2つのフェーズ

なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法の画像2『ROEが奪う競争力 ―「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(手島直樹/日本経済新聞出版社)

 M&Aには大きく分けて2つのフェーズがあります。当たり前の話ですが、買収に至るまでのフェーズと買収後のフェーズの2つです。前半のフェーズでは、契約の詳細を詰めることになりますが、そのなかでやはり買収価格を決定するのがもっとも重要と考えられます。ですから、被買収企業の買収価格の評価、より具体的にはM&Aによるシナジー効果の算出、というファイナンスの側面がこのフェーズのポイントとなります。

 一方、後半のフェーズでは、実際に買収した企業を統合しシナジー効果を実現することが求められるので、経営の側面がポイントとなります。ですから、M&Aの成功には、ファイナンスと経営の両輪が必要となるのです。逆に考えれば、だからこそM&Aの成功は難しいのです。

なぜM&Aは失敗するのか

 日本企業の間でもM&Aが経営戦略の一つとして確立されるようなり、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)、つまり買収後の統合が注目されるようになっています。買収して終わりではなく、買収した企業の経営をうまく統合して、企業価値を創造しようという意識が高まっていることの証と考えられます。たしかに良い傾向ではありますが、買収はしたものの、期待された成果が出ていないケースが多いことの裏返しともいえます。特に海外企業の買収で苦労している日本企業が多いのが現実です。
 
 こうした状況を考えれば、買収がうまくいかない原因は、PMIのスキルがないからだ、という結論になりそうなところですが、私はそうは考えていません。もちろん、PMIのスキルの向上は不可欠ですが、根本的な原因は、前半のフェーズにおける買収価格の決定だと考えています。

手島直樹

手島直樹

慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)、『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(2016年、日本経済新聞出版社)。

なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!