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手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授

 次に、シナジー効果を保守的に見積もり、買収プレミアムを低く設定すると、競合企業とのオークションで勝てない恐れがあります。オークションで勝つためには、競合企業よりも高い買収プレミアムを提示する必要があるのですが、競い合って買収プレミアムを高めてしまうと、シナジー効果を上回ってしまうことがあります。実際、「勝者の呪い」とよくいわれますが、シナジー効果を上回る買収プレミアムを提示しないと勝てないことも多いのです。

 しかし、これではオークションに勝ったとしても「高値づかみ」となり、株式市場には企業価値が破壊されると判断されてしまいます。もちろんその結果、M&Aの発表直後に株価は下落することになります。こうした状況は高値で売れる売り手にとっては非常に有利です。ですから、M&Aでは買い手よりも売り手になる方が、はるかに得なのです。

M&A巧者のM&A戦略

 では、M&A巧者はどのように行動しているのでしょうか。まずは、ウォーレン・バフェットがCEOを務める米バークシャー・ハサウェイ社から見ていきましょう。同社は世界一のM&A巧者だといっても過言ではないと思いますが、なんとオークションには参加しません。バフェットは、オークションで買収プレミアム競争に巻き込まれれば、「高値づかみ」が避けられないという勝者の呪いの問題を理解しているのです。これが負け戦はそもそもしないという規律なのです。

 一方、オークションには参加しないかわりに、同社はオークションなどせずに同社を買い手として指名してくれた売り手に真摯に対応します。もちろん、この場合、売り手が売値以外の要因を重視していることが条件になりますが、逆にそのおかげで、オークションで高く売りさばこうとする類の売り手はバフェットのところには寄り付かないという理想的な自己選択が起こるのです。同社は、弁護士や投資銀行を関与させずに買収することも多いのですが、これは売り手の質の高さの証といえるでしょう。

 次に日本のM&A巧者である日本電産を見ていきましょう。永守CEOのコメントが同社の戦略を明確に説明してくれます。永守CEOは7月の第一四半期の決算発表において次のように述べています。

「(投資対象となりうる)会社の価格が3割から4割程度下がっている。昨年買っていたら3、4割高く買ったことになる。昨年は日本企業による買収が多かったが、9割方が高値づかみ。我々は独自の算定基準を堅持し、1年半くらい大型買収を休んだ。今年は昨年買えなかったものが買える。非常にいい買い物になるんじゃないか。買うべき時に、買うべき価格で買うのが大事だ」

手島直樹

手島直樹

慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)、『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(2016年、日本経済新聞出版社)。

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