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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

音楽史上最大の謎、モーツァルト“幻の交響曲”に新事実…従来の仮説を覆す発見か

文=篠崎靖男/指揮者
音楽史上最大の謎、モーツァルト幻の交響曲に新事実…従来の仮説を覆す発見かの画像1
「Getty Images」より

 2009年、米バージニア州在住のある女性が大好きな蚤の市をぶらぶらしていたところ、なんの変哲もない箱が目にとまりました。その中には、人形やプラスチック製の牛の置物と一緒に絵画が入っていたそうです。絵画そのものよりもその額縁が気に入った彼女は、たった7ドルで購入して家に持ち帰ったのですが、絵自体はそのまま放っておいたそうです。

 それから2年半後のことです。絵の教師をしている画家の母親が訪れた際に、その絵を見て驚きました。慌てて専門家の鑑定を受けたところ、それはフランス印象派を代表する画家、ルノアールが、1879年に当時の愛人のために描いたとされるセーヌ河畔の風景画で、評価額は10万ドル(約1100万円)にも上るとみられたのです。通常、ルノアールの絵画は数億円の価値がありますが、この絵はルノアールが愛人とセーヌ川沿いのレストランで食事をしている際にリネンのナプキンにさらさらと描いたもので、傷みもあり、このくらいの評価額しかありませんが、それでも本物のルノアールです。

 その後、この絵をめぐって裁判沙汰になりました。実はこのお宝は、1951年に米ボルティモアの美術館から盗まれて行方不明になっていたのです。それから60年もたって、どのようにして蚤の市で売られていた箱の中に納まったのかは不明ですが、最終的には「盗品の所有権は移らない」という理由で無事、美術館に戻ることになりました。

 まるで『開運!なんでも探偵団』(テレビ東京系)のような話です。最近でも、今年1月、23年前にイタリアの美術館で盗難にあったクリムトの名画「夫人の肖像」が、同じ美術館の壁にある小さな扉の中から発見されたことが話題になりました。なんと評価額は73億円の名画です。

 このような絵画の盗難の話は、ほかにも結構あります。最も有名なのは、1911年に仏パリのルーブル博物館からレオナルド・ダ・ヴィンチの大傑作「モナ・リザ」が盗まれた事件でしょう。2年後、イタリアの美術館に売ろうとやって来た犯人とともに無事、見つかったのですが、実際には、名画を盗んでも売ることは不可能といわれています。有名な画家の作品が盗難に遭えば、そのニュースはあっという間に世界の津々浦々に伝わってしまうので、のこのこ売りに来ても、そのまま刑務所送りとなります。そうでなくても、世界の名画を持ち込んで来ただけで怪しく思われてしまうでしょう。

 これは、高価な弦楽器の世界でも同じです。たとえば、イタリアの有名な弦楽器、ストラディヴァリウスなどは、すべてがリストアップされて世界中の楽器商に知られています。うまく盗めたとしても売ることはできず、結局は捨てる羽目になるだけです。

 本連載記事『盗まれた3億8千万円のストラディヴァリウス、無事に戻ってきた奇想天外な顛末』で詳述しましたが、僕がロサンゼルス・フィルハーモニックの副指揮者を務めていた頃、首席チェロ奏者が3億8000万円のストラディヴァリウスのチェロを盗まれた事件がありました。しかし、あっという間にニュースで話題となり、泥棒もごみ置き場に捨てておくしかなかったのです。その後、偶然通りがかった女性が家に持ち帰り、テレビでチェロ盗難のニュースを見て、無事に楽器は戻ってきたのです。

有名作曲家の“知られざる名曲”発見秘話

 一方、同じ芸術でも音楽自体の盗難事件はありえません。「ライバルの作曲家にメロディーを盗まれた」という話はありますが、これはせいぜい、ヒットした曲の良いメロディーをちょっと自分の曲に入れ込んでみた」くらいの話です。

 では、冒頭の女性が蚤の市で名画を見つけたように、有名な作曲家の知られざる名曲が発見されるなんて出来事はないのでしょうか。実は、有名な話が残っているのです。

 シューベルトの交響曲第8番『グレート』という名作があります。シューベルトは、モーツァルトの再来といってよいほど素晴らしい音楽の才能を持った、19世紀前半のウィーンで活躍した作曲家です。しかし、彼はモーツァルトのように自分自身やその音楽を売り込む能力が決定的に欠けており、仲間たちのサークルで音楽を楽しんでいる程度の作曲家と評価されていました。8つの交響曲などを作曲していますが、生前には1曲も出版されることがなかったのです。

 19世紀のドイツで大きな影響力を持った作曲家、シューマンもシューベルトを高く評価してはいませんでした。ところがある日、大事件が起こりました。シューベルトの死の10年後にウィーンを訪れて墓参りをしたシューマンは、シューベルトの兄に誘われて訪問したシューベルトの自宅で、まさしく歴史が動くような大発見をしたのです。

 死後もまったく生前のままの状態に保たれていた仕事机の引き出しを開けたシューマンの目に入ったのは、知られざるオーケストラの楽譜でした。すぐさま、その楽譜に目を通したシューマンは、「とんでもなく素晴らしい交響曲だ」と飛び上がってしまいます。そして、すぐにドイツ初演を行い、これまでのシューベルトに対する評価を一変する大傑作として世に知らしめたのです。そして、10年間も机の中に眠っており、いつ破棄されてもおかしくなかった楽譜が、その後の音楽にも大きな影響を与えることにもなりました。それまでは、冒頭が2本のホルンのみで始まるような交響曲は誰も聴いたことがありませんでした。

 最近でも、ロシアでストラヴィンスキーが1908年に作曲し、その後、紛失していた作品の楽譜が2015年に発見されて世界中で大きな話題になりましたが、まだまだ知られざる名曲がどこかに眠っているかもしれません。

モーツァルトの“幻の交響曲”

 そんななか、話題が尽きない“幻の交響曲”があります。それは、モーツァルトの交響曲第37番です。41曲の交響曲を書き上げたモーツァルトですが、実は37番が不明です。もし、これが見つかれば、世紀の大発見となります。ところが、実際には存在しない交響曲といわれています。

 27歳の乗りに乗っていたころのモーツァルトが、旅先のリンツで交響曲を2曲演奏するように依頼された時のことです。演奏会はわずか3日後で、しかも「誰も聴いたことのない新しい交響曲」が条件でした。ちょうど出来上がったばかりの交響曲が1曲あったのですが、もう1曲をたった3日間で書き上げたという有名な逸話が残っています。それが、大傑作の交響曲第36番『リンツ』といわれているのです。

 しかし、さすがの大天才でも、3日間で交響曲を作曲するのは、とてつもなく難しいことです。そこでどうしようもなく、友人のミヒャエル・ハイドンの交響曲を拝借し、短い前奏だけを付け加えて新作としてお茶を濁したのではないかともいわれています。しかも、その時に書き足した前奏の楽譜は現存しています。

 僕としては、3日間で交響曲を完璧に書き上げたというモーツァルトの天才性を信じたいですが、同じ年に、体を壊したために大切な雇い主から依頼された曲を書くことができなかったハイドンの代わりに、モーツァルトがゴーストライターを務めたことがあり、その借りを返してもらったという話まであります。著作権の概念がなかった当時には、よくある出来事です。ただ、さすがにその後のモーツァルトは、この他人の交響曲を再び演奏することはなく、楽譜庫にしまい込んでいたのです。

 ところが、モーツァルトは若くして急死してしまいます。そして、その遺品から、今まで知られていなかった交響曲が見つかって大騒ぎになったのです。これこそ、このいわく付きの交響曲でした。そして、それを見たウィーンの楽譜商が、“モーツァルトの知られざる交響曲を発見した”と早とちりして交響曲第37番とし、それ以降の交響曲を38番から順番に番号を振って出版してしまったのです。その後、37番はモーツァルトの作品ではないとわかった時には、すでに手遅れ。38番から41番の交響曲は有名になっていたので、今さら変えることはできず、仕方なく存在しない37番を欠番にしたというのが真相だといわれています。

 しかし、最近になって大きな新発見がありました。ハイドンの交響曲に付け加えたといわれている前奏曲の五線紙が、リンツ滞在の後の時期に使用していた物であることがわかったのです。そうなれば、交響曲第36番『リンツ』と一緒に演奏した新しい交響曲はなんだったのだろうかと、新しく疑問が出てきます。

 35番から41番の交響曲は、どの曲も大傑作として知られているので、もし37番が本当に見つかれば音楽史上最大の発見で、その価値は想像を超えたものになるに違いありません。そうなれば、僕も真っ先に指揮をしたいと思います。

(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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