星野リゾート、破綻旅館をことごとく再生&売上爆増の驚愕手法…毎晩お祭り、苔を活用…
一方、少し落ち着いて食事をしたい宿泊客には「のれそれ食堂」という施設もあり、割烹着を着た「かっちゃ」(おかあさん)が接客を担当する。同社の従業員がかっちゃに扮した姿は、どこかテーマパークのようだが、これも青森らしさを求める宿泊客には好評だという。
星野リゾートには「魅力会議」と呼ぶ会議がある。その地域のよさを魅力として打ち出し、宿泊客に訴求するものだ。会議のテーマのひとつに「悪ノリする」もある。同会議も、何年も続けるうちに活発な意見が次々に交わされ、苔メンなどのアイデアにつながったという。
実は、宮越氏は新潟県出身で、渡部氏は千葉県出身だ。
「地元スタッフにとっては当たり前の存在だった『地域の魅力』に気づくのは県外出身のスタッフが多いのですが、その魅力の深みを出すには地元出身のスタッフの力が欠かせません」(同)
青森屋の敷地面積は約22万坪と、宮城県仙台市にある野球場の楽天Koboスタジアム宮城が17個分入る広大さだ。かつて敷地内には出雲大社など、現在のコンセプトに合わない施設もあったが「解体して引っ越していただき」(同)、のれそれ感を高めた。こうした一連の取り組みの結果、青森屋の売上高は過去5年間で約4割も伸びた。
今後の課題は「冬の営業」
こうして紹介すると、いいことずくめのようだが、その場所に来てもらわなければ始まらない「装置型」である青森県の施設には大きな課題がある。それは冬の集客だ。豪雪地帯でもあるため、真冬には交通機関にも影響が出る。
特に奥入瀬渓流ホテルは、冬期には奥入瀬と八甲田山をつなぐバス便が運休となり、積雪時には自家用車での来客も激減する。そのため、毎年11月下旬から翌年4月下旬までの約4カ月半が休館となるのだ。ただし、ホテル側は「近い将来、通年営業に踏み切りたい」(宮越氏)と意欲を示す。
「現在、青森県の観光宿泊人数は年間約500万人ですが、まずこの数字を550万人にするのが官民一体で掲げる目標です。最も伸びしろがあるのは冬で、たとえば八甲田山の樹氷や奥入瀬の氷瀑といった、冬にしか見られない観光資源も多くあります。青森には大型のスノーリゾートがなく、静かな冬の温泉などもお客さまに訴求できると思います」(渡部氏)
各地で経営破綻した旅館やホテルの再生で成果を上げてきた星野リゾートだが、業績不振から巻き返すために現場は何を考えるのか。最後に、そのヒントを紹介したい。