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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

コロナ下、女性雇用者数が大幅減…労働市場で女性需要の低下が深刻、非正規比率は55%

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
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「Getty Images」より

はじめに

「コロナショック」という言葉に象徴されるように、今春に新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、我が国は不況の真っただ中を彷徨っている。

 不況というと、経済の問題だけのように考える向きもあるが、実はこの間、労働市場ではある大きな変化が起きている。それが、労働市場における女性労働力需要の相対的な低下である。その結果として、リーマンショック後に起きた「男性不況」と逆の状況が引き起こされている可能性がある。

 なお、男性不況とは、グローバル化の進展による製造業雇用者の減少と少子高齢化による建設業の雇用減で男性比率の高い職場が減る一方で、高齢化の進展による医療介護の雇用増や男女差別の軽減等により女性比率の高い職場が増えたことで生じた。

対人価値を希薄化させたコロナショック

 実際に、年度明け以降の労働力調査を見ると、4-5月平均で男性就業者数は前年度比▲34.5万人減少しているのに対し、女性就業者数は同▲44.5万人減っており、職を失う女性が男性に対して1.2倍の量で出現している。さらに、これを雇用者数でみると、男性が同▲22.0万人、女性が同▲33.5万人となっており、男性の1.5倍以上のペースで雇用者数が減少していることがわかる。

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 コロナショック後の労働市場では、今まさにこのような「女性雇用減>男性雇用減」が進行しており、社会のあり方をも変えようとしている可能性がある。こうした女性の就業環境の急激な悪化が生じた背景には、大きく3つの要因がある。

(1)非接触化の進展によるサービス関連産業や卸小売業の雇用者数減少で、女性比率が高い職場が減った。

(2)不況により、相対的に女性の多い非正規労働者の雇用機会が減少した。

(3)オンライン化・EC化の進展による運輸・郵便業や情報通信業の雇用者数の増加により、男性比率が高い職場が増えた。

女性雇用が激減した背景

 まずは、女性の就業率が高いサービス業の需要喪失である。

 すでにコロナショック以降、感染を避けるため、不要不急の外出が控えられている。それに伴い、総務省の労働力調査を見ても、年度明け以降の宿泊サービス・飲食業や生活関連サービス・娯楽業の就業者数が大幅に減少していることがわかる。

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 また、こうした需要の喪失だけではなく、雇用形態の変化も無視できない。日本企業は不況期のみならず、景気回復期であったアベノミクス景気の間も、人手不足を補うべく、非正規雇用者を大量に雇用することで、女性や高齢者の労働参加率上昇に貢献してきた。

 しかし、非正規雇用者は、正社員に対して、景気が悪くなれば解雇されるなど雇用の調整弁として使われることが多いという特徴がある。その観点で改めて日本の雇用形態別の就業者数を見てみると、2019年度時点で、男性雇用者の22.8%が非正規雇用者である。これに対して、女性は55.7%が非正規であり、いかに女性の非正規比率が高いかを如実に物語っている。

 男女計の非正規比率で見ても、リーマンショック後の2009年度33.8%から2019年度に38.1%にまで上昇していることからすれば、ひとたび需要が止まると、一気に雇用が縮小してしまう危うい構造が強まっていたといえる。

 こうした女性の職場の減少は、卸小売業でも起こっている。卸小売業は、今年2月には1095万人といった最大の就業者を抱える業種だったが、今年5月には1040万人と、実にこの3カ月で▲55万人の就業者が消失している。

 この消失分のうち3分の2以上が女性のため、この業種の就業者の減少が女性雇用の減少に拍車をかけた要因の一つであることは間違いない。事実この3カ月で、女性の卸小売業の就業者数は571万人から537万人と▲37万人も減っている。

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減り続ける卸小売業の雇用

 卸小売業で雇用が減少した第一の理由は、ネット通販の拡大である。日本のBtoCのEC化率は、2010年の2.84%から2018年には6.22%の水準まで拡大している。これにコロナショックにより非接触化が強まれば、店舗型の雇用が減少しても不思議ではない。

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 こうしたEC化の進展に加え、サブスクリプション(以下サブスク)の進展も卸小売業の雇用が減る一因となっている。サブスクの進展は所有のニーズを減らすことになるため、なかでも財市場との関係が非常に強いことが予想される。

 事実、矢野経済研究所のサブスク市場の推移を見ると、順調に拡大していることがわかる。そして、サブスク市場が拡大するということは、所有から利用へのシフトを意味し、財・サービスの購入する必要性が低下するため、財を販売する雇用の必要性も低下する。

 先の通り、EC化率はスマホの普及と共に拡大が続いている。しかも、日本では今後も新しい生活様式で非接触化が求められるため、EC化率は上昇を続けることが確実である。また、多様なサブスクサービスが出現していることや無人レジが普及していること等もあり、対面販売の雇用ニーズは今後も低下を続けるだろう。

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男性の職場が増えた背景

 このように、サービス業や流通業など多くの業種で雇用は減っているが、いくつかの業種ではコロナ後でも雇用を増やしている。

 それが、男性の雇用を押し上げている運輸・郵便業と情報通信業である。その数は、この4・5月の前年比でいずれも+10万人となっており、他の業種と様相が異なる。

 運輸・郵便や情報通信での雇用がこのように急激に増えているのは、コロナショックに伴う非接触化の進展が大きく関係している。コロナ後は感染拡大防止のために新しい生活様式が求められており、ネット通販やテレワーク等が推奨されている。そのため、配送やデジタル化に関連する分野では、逆に雇用が増えていると予想される。

 運輸業にしても情報通信業にしても、多くが男性スタッフで成り立っていることはよく知られている。配送業務では、ドライバーや配送員の多くが男性であり、情報通信業でも実際の職場では、女性よりも男性従業員が多いのが一般的である。実際、直近の運輸・郵便業と情報通信業の男女の就業者の比率を見ると、それぞれ78%、72%を男性が占めている。

 このように、運輸・郵便や情報通信の分野で就業者数が大きく伸びており、かつこれからもより多くの人材が求められると予想されるが、現状では女性雇用を吸収する受け皿になりにくい。むしろ、この分野で今後も男性が多数雇用され続ければ、女性との就業率の差をさらに広げることになり、「労働市場における女性需要の低下」をさらに加速させることになりかねない。

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求められるワクチン・特効薬開発と女性雇用創出

 このように、女性の就業環境悪化は着々と進行し、気がつけば女性の就業減が男性の就業減を大きく上回る事態に陥っている。しかも、日本での女性の雇用環境は、改善の兆しが一向に見えていないのが現実である。すでに女性の就業環境悪化は現実のものとして、我々の生活の至る所にその影響を及ぼし始めている。しかも、コロナショック特有の事情が重なり、今後はさらにそれが深刻化することが予想される。

 また、新しい生活様式の導入を受けて経済構造の変化を余儀なくされるという面で評価すれば、あくまで予想の域を超えないが、リモート活動の拡大等により人の移動が元に戻ることがなければ、従来の女性比率が高い職場の労働需要も元に戻らない可能性があり、雇用調整助成金による雇用の維持だけでは支えきれない可能性がある。

 なお、1年間で失業者が110万人以上増加したリーマンショック時の雇用対策には、「雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金」(0.6兆円)以外にも「緊急人材育成・就業支援基金」(0.7兆円)や「ふるさと雇用再生特別交付金」(0.25兆円)「緊急雇用創出事業」(0.45兆円)等、雇用の下支えだけでなく、新たな雇用の創出も図られた。

 そういった意味では、雇用維持策だけでなく、企業が業態転換しやすい規制緩和や女性がデジタル化関連業種に対応できるような就業支援の重要性が増してくるだろう。

 また、そもそも感染の恐怖が払しょくされなければサービス関連産業の需要は元に戻らないため、コロナショックに伴う女性の就業環境悪化を最小限に食い止めるためにも、政府は予備費を有効活用して、迅速で大胆なさらなるワクチン・治療薬開発や雇用創出に対する追加の対策が求められるといえよう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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