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さんきゅう倉田「税務調査の与太話」

通勤費自腹の派遣社員、正社員に比べて税金面で損!確定申告で控除されない

文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人
【完了】通勤費自腹の派遣社員、正社員に比べて税金面で損!確定申告で控除されないの画像1
「Getty Images」より

 元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな社員は「正社員」です。

 所得税のルールでは、勤務先から支給される通勤費には所得税がかからないとされています。給与ではなく、あくまで通勤にかかる費用と考えられているからです。一般的に、給与明細の中で「給与」と「通勤費」は明確に区分されていますが、通勤費が給与に含まれる場合はどうでしょうか。通勤費は支給されずとも、通勤に際して電車賃やバス代は発生します。そのお金は、その人が受け取る給与の中から負担することになります。

 今回は、通勤費の支給のない派遣社員が、通勤費相当額を確定申告時に控除して申告したものの、否認された事案を紹介します。

通勤費が給与に含まれる場合は控除されない?

 派遣社員のAさんは、年間の給与330万円から通勤費30万円を引いた300万円を確定申告書の「給与」の欄に記入して提出しました。なお、確定申告に際して、派遣会社から発行された源泉徴収票を添付していますが、そこに記載されている支払金額は「330万円」となっています。

 つまり、源泉徴収票と確定申告書の収入の金額が異なるわけです。これについてAさんは次のように主張しました。

「通勤費は、給与を得るために必要な費用です。非課税所得として、収入から除外されるものだと思います。通勤にあたって、どのくらいのお金がかかったかも、現住所と勤務地、派遣期間を示しており、そこに偽りはありません。通勤費が発生したことは明確です。だから、控除されてしかるべき費用です」

 調査担当者は、正社員と比較して、Aさんが不平等な立場に置かれていることに同情しました。しかし、通勤費を非課税とする規定はあっても、給与の中の通勤費相当額を非課税とする規定がないとして、Aさんの申告内容を認めることはありませんでした。そこで、Aさんは食い下がります。以下、Aさんと調査担当者のやり取りです。

Aさん「法律は、最初から完成しているわけではありませんよね。社会の中で起こる、さまざまな出来事、事実によって成立して、改正されたり、廃止したりするはずです。派遣はまだ新しい働き方で、法律が追いついていないと思います。現に、派遣社員に通勤費が支給されない状況に未対応です。税務署は通勤費を給与明細に明記するよう派遣会社に指導すべきで、それをしないのは怠慢ではないでしょうか。それを無視して私の申告内容を一方的に否定するのは、不合理だと思います」

調査担当者「Aさんの派遣会社との契約内容を確認しました。その契約では『通勤手当を支給しない』となっています。つまり、通勤費や通勤手当の支給はないことになります。よって、Aさんが通勤費を負担したとしても、その金額は非課税所得になりません」

Aさん「しかし、実際に給与に通勤費が含まれているじゃないですか」

調査担当者「調べたところによると、給与の内訳は基本給、超過勤務手当、賞与となっていて、通勤費は区分されていません。さらに、派遣会社に確認したところ、Aさんの採用に際し、担当者が、通勤手当を支給しない旨を説明したそうですね。あなたは、それを承知した上で勤務していたのではないですか」

Aさん「でも、実際に負担しているじゃないですか。個人事業者なら経費が認められるのに、派遣社員は認められないなんて、不平等です」

調査担当者「でしたら、個人事業者になられてはいかがですか?」

Aさん「税務署は、不平等なルールが是正されていないことの責任は負うべきだと思います。私だけが割を食うなんて、納得がいきません。派遣会社へ、今後は、通勤手当を明記するよう指導してください」

調査担当者「そのような派遣会社への指導は我々の関知するところではなく、不平等なルールが是正されなかったとしても、ルールをつくるのは税務署ではありません。ルールに不平等な点があり、それが改善されなくとも、現在の法律で適正に処理するのなら、Aさんの申告内容は認められないのです」

 結局、Aさんの主張が認められることはありませんでした。Aさんが通勤費相当額を所得から控除したいという気持ちは理解できますが、秩序のために、税法に規定されていない処理をするわけにはいきません。税務署と闘うエネルギーがあるのなら、派遣会社に対して通勤手当の支給や明記を嘆願するほうが、良い結果を得られたと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)、『お金持ちがしない42のこと』(Kindle版)がある。
さんきゅう倉田公式ホームページ

Twitter:@thankyoukurata

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