スクール通学や資格取得等のための出費で、払う税金を安くできる?
亮子「特定支出控除として認められる支出を見ると、研修費用とか、引越し費用とか、そもそも会社から補助が出そうなものもあるよね?」
啓子「はい。会社から補助が出た分は、もちろん差し引いて計算します」
亮子「あと、領収書は保管しておかなくてはならないよね?」
啓子「具体的な手続きのポイントについて、説明しますね」
結局、いくらの支出を控除できるのか
前回、年収500万円の会社員で、英会話スクール代等100万円を支出した場合に特定支出控除を使うと、所得から約23万円の控除が可能で税金が約4万円安くなるとお伝えしました(詳しい計算方法は前回記事を参考にしてくださいね)。前回は会社の補助などなく会社員が100万円を自己負担した例でしたが、会社から補助が出た場合や雇用保険の給付制度である教育訓練給付金が支給された場合には、特定支出控除を計算する際に支出した金額から補助等を受けた分を除く必要があります。
たとえば、英会話スクール代等100万円を支出して、その後、教育訓練給付金を10万円受け取った場合には、100万円―10万円=90万円が特定支出控除の計算の対象となります。そして、年収500万円の場合には、特定支出控除の基準額が77万円となりますが、この場合には13万円(90万円―77万円)が特定支出控除の金額となり所得から差し引くことができます。節税効果でいうと約2.6万円(13万円×税率20%)です。つまり、実質自己負担した分、税金が安くなる仕組みになっています。
また、場合によっては一括で2年分の授業料等を支出することもありますよね。仮に資格取得のための専門学校授業料を2年分支出したら、2年分の支出がその年の特定支出の対象となるのでしょうか。特定支出控除を適用する際には、支出という要件に加え、役務(サービス等)を受けていることが条件になります。つまり、2年分全額は特定支出控除の対象とはなりません。2年分支出したもののうち、それぞれの年に対応する金額を特定支出の金額として計算することになります。
たとえば、2年間分のスクール代100万円を一括で支払った場合、そのうち1年目が60万円、2年目が40万円に対応する部分とします。そうすると年収500万円の会社員の特定支出控除の基準額が77万円ですが、たとえ100万円の支出があっても1年目、2年目ともに支出額が基準額77万円を下回り、特定支出控除を適用することができません。一方、未払いの場合には、役務(サービス等)を受けていても支出がないため、その年の特定支出には該当しないこととなります。
会社員の税金は1~12月を基準に計算されます。もしも1年分のスクール代などを一括で払う場合には、年初に1年分払うと、特定支出控除の対象が増えるので税金的にはお得です。また、特定支出控除の対象となる支出が複数ある場合、同じ年に支出することで特定支出控除の基準金額のハードルを越える可能性が高まります。
証明はどこでもらえばいいの?
特定支出控除がある場合には、勤め先の会社から仕事上必要な支出である旨の証明をもらう必要があり、その証明書を確定申告に添付して手続きすることになります。証明の用紙は国税庁のウェブサイトや税務署で入手可能です。
仮に、複数の会社から給与を受け取っている場合、証明はどの会社からもらえばいいのでしょうか? ポイントは特定支出控除の対象が仕事上必要な支出という点です。特定支出控除を適用するためには、会社からその支出が仕事上必要ということを証明してもらうので、証明してもらう支出がどの会社の仕事で必要なのか? という考え方で証明してもらう会社が決まります。会社は関係ない支出に対して証明はしてくれないですよね。どの会社の仕事で必要となる支出なのかを確認して証明をもらってください。
領収書はどこまで必要?
確定申告時に領収書の添付または提示が必要となります。そのため、基本的にはすべての領収書等を保管するようにしてください。また、帰宅旅費の特定支出控除を適用する場合には、鉄道会社などに乗車等、交通機関を実際に利用したことの証明も受ける必要があります。
確定申告はどうするの?
特定支出控除を適用する場合には、確定申告の手続きが必要になります。確定申告には主に次の書類が必要になります。
1.確定申告書
2.源泉徴収票
3.特定支出の証明書
4.特定支出に関する明細書
5.特定支出の対象になる領収書
2.源泉徴収票と5.領収書以外はすべてウェブサイトでフォーマットを入手することが可能です。4.特定支出に関する明細書には、支出の内容や支払先、支払日などを記載する箇所があります。年に1回で集計しようとすると大変ですので、特定支出控除の適用ができそうな年は事前に確定申告に必要な明細等のフォーマットの確認をして、明細書に詳細を書き留めておくなどの準備をしておくことをおススメします。
また、確定申告をしたあとに記載の誤りを発見したり、特定支出控除の適用が漏れていたといったことも考えられますが、その場合には、確定申告を修正することが可能です。過去5年分であれば修正が可能なので、気付いたら諦めずに手続きしましょう。手続自体は修正した確定申告を提出するようなイメージとなります。
住民税も節税になる?
特定支出控除を使えば住民税も安くなります。確定申告をすれば自動的に自治体へ、給与収入やどのような控除制度を使ったかなどの情報が伝わって計算してくれるので、確定申告さえしていれば手続は完了です。住民税の場合の節税効果は特定支出控除額×10%。ちゃんと住民税が安くなっているか、会社から毎年5月頃に配布される住民税決定通知書の給与所得の金額を確認してみてください。滅多にありませんが、仮に想定よりも給与所得が高い場合には、特定支出控除の計算がきちんとされていない可能性がありますので、その時は自治体に連絡して確認してみてください。
亮子「給与所得控除の半額を超える支出なんて、なかなかないかもしれないけれど、そういう支出があった年はこの制度を利用したいね」
啓子「少しずつの積み重ねが大切だと思います」
亮子「チリも積もれば山になる」
啓子「その対策として、日頃から領収書などを受け取る習慣を身に付けておけば、お金の使い方も上手になると思います」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)