もうひとつ意外と多いのが、「夫は中国産を食べない」という家庭だ。「子どもや家族のために、より安全なものを」ということもあるが、表示していなければ「どこの国かわからないけれど、中国産じゃないと思う」とごまかすこともできる。
これが、軒並み表示されると当然、国産の原材料を使っている商品に付加価値が付く。差別化ができるから食品業界も大歓迎のはずだが、そうはいかない。なぜなら、ほとんどの加工食品が、国産の原材料を使っていないからだ。
もちろん、外国産の表示があるからといって売れないわけではないが、商品価値が下がることは間違いない。鶏の唐揚げの鶏肉のほとんどがブラジル産と表示されると、消費者の購買意欲が低下する。商品やメーカーのイメージダウンになると考えられている。
では、国産の原材料を使って付加価値を付けて商品を売ればいいではないかと思われるかもしれないが、そもそも国産の原材料は非常に少ない。食料自給率がそれを証明している。国産の原材料を使った商品をつくろうと思っても、思うようにできないのが現状だ。だから、事業者は現状のようなあいまいな表示を望んでいる。
事業者にとってはコスト増
もうひとつ事業者にとって困った問題がある。それは、印刷コストを価格に上乗せできないことだ。原料原産地表示を全加工食品で実施するには、それなりのコストがかかる。商品の販売規模(同じ表示の商品の製造数量)にもよるが、事業者としては1商品当たり数円は販売価格に上乗せをしたい。しかし、今の景気では「外国産の原材料を使っていることを公開することになったから値段を上げます」とはいえない。
コストを価格に転嫁できない上、商品価値を下げることになる。それを避けるために、国産原材料の奪い合いになるかといえば、そうはならない。そもそも日本の第一次産業は、生産量を増やそうにも担い手がいないのが現状だ。
ただし、事業者は何も恐れる必要はない。原料原産地が義務化されたからといって、売り上げが落ちる商品は限られている。情報公開、見える化の一つだと割り切るべきだ。何よりも、原料原産地表示の義務化を契機に、これからの日本の第一次産業をどうすべきかという議論が進むことが、もっとも重要である。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)