ツナ缶にゴキブリが混入したとされる異物混入事故が発生しました。当該メーカーの見解は、「製造日から1年 10 カ月を経過し、ほかのお客様からのお申し出がないことから、連続性はなく、現在販売している製品につきましては、安心してお召し上がり頂けると判断いたしております」と発表されています。
インターネット上では、市場回収の是非について論じられていますが、市場回収する時の判断は、「対象となる製造ロットを食することで、人体に危害を与えるかどうか」、この一言になります。
洗剤、農薬などの毒物が混入した可能性がある場合や、表示されていないアレルゲンが混入した場合、また、金属やガラスなど食べることで人体に物理的危害を与える異物が混入した場合などは、報道機関に周知し、新聞などにも告知を行い、さらに市場回収する必要があります。
しかし、樹脂製の細かいパッキンが混入した、青いビニールシートが混入したなど、万が一お客様が食べてしまっても人的危害が考えにくい場合は、管轄保健所などの関係者と相談の上、市場回収の必要性を判断すべきと考えます。
トラブルが後からおおやけになった場合、「なぜ公表しなかったのか」という声も聞かれますが、日本中で発生している食品の異物クレームをすべて公表する必要があるかどうかも疑問です。
筆者は、先に触れた「人的危害が発生する可能性のある事例」以外は、異物混入を発見した当事者以外に公表する必要はないと考えます。
たとえば、ツナ缶にゴキブリが一匹丸ごとではなく、「ゴキブリの脚だけ」が混入したという報告が複数発生していたとします。筆者は、この場合でも該当製造ロットの回収は必要ないと思います。缶詰製品は、充分加熱されており、ゴキブリを食しても人的危害は発生しないと考えるからです。
「小さなビニール片が混入した」「賞味期限表示を100年間違えた」といった場合でも、市場回収を行う場合がありますが、製造ロット全体に人的危害が発生する可能性がある場合以外は、市場回収の必要性があるとは思いません。
今後は購入しないという選択肢
冒頭のゴキブリ混入事故については、メーカーは「当該工場に対し、整理整頓、清掃の徹底に加え、防虫対策、専門業者による消毒の徹底を指示し、既に実施しております」とホームページ上に掲載していますが、ゴキブリが発生し、製品に混入するような工場に製造を委託していた責任は残ります。
毛髪混入事故と違い、たとえ食べても人的危害がないとはいえ、缶詰の中からゴキブリが出てきた場合、発見した方は精神的にかなりの衝撃を受けます。
一般的に食品工場では、ゴキブリが生息しているかどうかのモニタリング装置を設置しています。包装されていない製品を取り扱う作業場では、ゴキブリなどの生息がない環境であることが必要です。缶詰の中にゴキブリが入り込む環境では、モニタリング装置に日常的にゴキブリなどが捕獲されていたと考えられます。
製造委託する工場に対し、「ゴキブリの捕獲がないこと」などの基準を設け、監査を行っていれば防げた事故だと考えます。人的被害が発生する可能性のない商品の市場回収は必要ありませんが、消費者側は、ゴキブリの混入する環境で製造委託していた企業の商品を購入しないという選択はできるのです。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)