米大統領選は8日、投開票され、共和党のドナルド・トランプ氏(70)が民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破り、第45代大統領に就任することが確定した。
筆者はあるアイドルのライブ後の握手会で、顔見知りでもあったそのアイドルに「トランプが勝ったよ」と言ったら、「え~、まずいじゃないですか。トランプさん、日本嫌いなんでしょ?」という反応が返ってきた。
「トランプ次期大統領は日本が嫌い」という印象は、かなり一般的かもしれない。日本を含む同盟国との軍事関係を経済面から見直し、在日米軍の経済的負担を日本が担わなければ、米軍撤退、そして日本の核兵器保有を容認するというものがその引き金だろう。おそらく政治的に過度に偏りがなければ、この「日米安保放棄」とも取れる発言は、「日本に冷たい」と感じる人が多いのではないか。
ただ、このトランプ氏の発言に、日本的左派と、政治的には逆の右派の一部が、脊髄反射的に賛意を表明したことも思い出しておく必要があるだろう。もっとも日本的左派の人たちは、核兵器保有ではなく、憲法9条が在日米軍の代わりになると信仰している点が、一部右派の人とは違うようだ。
客観的に判断する限り、単純に経済的負担だけを理由に在日米軍が日本から去っていくことはまずない。なぜならそれは、米国の東アジアや太平洋の安全保障政策を大幅に縮小し、対中国・対ロシアなどを含めたかなり割高で、また不透明な賭けに出ることを意味しているからだ。なんの「緩衝地域」もなく、海洋進出政策を活発化させる中国と向かい合うリスクをあえて取ることにもなる。
米軍の日本撤退の可能性は低い
そもそも客観的にみて、すでに日本は在日米軍の駐留経費の過半を負担している。2016年予算でも防衛省関連だけで約5400億円の巨額であり、その負担率は70%を超える高率である。韓国、ドイツ、イタリア、イギリスなどに比べてもその何倍、何十倍の負担額であり、負担率も米国の同盟諸国のなかでダントツの一位である。いいかえると、トランプ氏にいわれるまでもなく、今まで日本は米国から軍事的に「見捨てられる」可能性が起きないように、自国で在日米軍のコストを大きく引き受けてきたことになる。
もちろん、この政府予算に現れないコストもある。たとえば、現在も政治問題化している沖縄などでの在日米軍に関するコストも無視できない。武田康裕氏と武藤功氏(共に防衛大学校教授)の著作『コストを試算!日米同盟解体』(毎日新聞社)によると、沖縄の米軍基地が存在しないときに、跡地利用などで経済効果が1兆6000億円超も生まれるという。