取材に対して、トランプ陣営のインターネット戦略を率いたスタッフは「デジタルを使うにはデジタル・ファーストでなくてはならない」「それがメインコースになる」などと述べています。つまり、インターネットを主にして、マスメディアを従とするような戦略が展開されたわけです。このことは、トランプが共和党内で予備選挙を戦っている頃から一貫していたと思われます。
トランプ陣営のデジタル・ファーストぶりを示すのが、Facebookの広告に関するA/Bテストを徹底して行っていることです。A/Bテストとは、広告メッセージをさまざまに変えながら、ターゲットごとにより効果の高い広告を模索することをいいます。いうまでもなく、これはデジタルメディアだから可能になる戦術です。WIREDによれば、クリントンとトランプが3回目の討論会を行った日、トランプ陣営は17万5,000通りの異なる広告を流したそうです。
ソーシャルメディアでは広告だけでなく、クチコミの拡散も重要な武器となります。ソーシャルメディアには、エコーチェンバーと呼ばれる効果があるという説があります。内部で音がこだまし合う部屋にいると、対立する候補やその支持者の声は聞こえず、同じ考えの声だけが耳に入ってくるというわけです。その結果、各候補の支持者は、自分たちが世のなかの多数派だと信じるようになります。こうした効果がどれだけあったかについて、今後の研究が期待されます。
長期トレンドから見た米大統領選挙
最後に、今回の大統領選での投票行動をマクロ的な視点から眺めることにしましょう。図1は、1980年以降の米大統領選について、共和党と民主党の候補が獲得した票数を比較したものです(本稿を執筆した11月21日時点のデータです)。図2は、それを全投票者におけるシェアで描いたものです。
今回の選挙では、得票数の総計でクリントン氏がトランプ氏をわずかに上回っています。もちろん獲得した州別の選挙人数で勝敗を決めるのが米大統領選挙のルールなので、トランプ氏が選挙に勝ったという事実が覆るわけではありません。それよりもここで注目したいのは、両候補の全体的な得票数にほとんど差がないことです。これは、見方によっては2000年頃から起きている傾向だといえます。