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水野誠「マーケティングの進化学」

「隠れトランプ支持」説へ反論…有力メディアが予測を外した知られざる理由

文=水野誠/明治大学商学部教授

 取材に対して、トランプ陣営のインターネット戦略を率いたスタッフは「デジタルを使うにはデジタル・ファーストでなくてはならない」「それがメインコースになる」などと述べています。つまり、インターネットを主にして、マスメディアを従とするような戦略が展開されたわけです。このことは、トランプが共和党内で予備選挙を戦っている頃から一貫していたと思われます。

 トランプ陣営のデジタル・ファーストぶりを示すのが、Facebookの広告に関するA/Bテストを徹底して行っていることです。A/Bテストとは、広告メッセージをさまざまに変えながら、ターゲットごとにより効果の高い広告を模索することをいいます。いうまでもなく、これはデジタルメディアだから可能になる戦術です。WIREDによれば、クリントンとトランプが3回目の討論会を行った日、トランプ陣営は17万5,000通りの異なる広告を流したそうです。

 ソーシャルメディアでは広告だけでなく、クチコミの拡散も重要な武器となります。ソーシャルメディアには、エコーチェンバーと呼ばれる効果があるという説があります。内部で音がこだまし合う部屋にいると、対立する候補やその支持者の声は聞こえず、同じ考えの声だけが耳に入ってくるというわけです。その結果、各候補の支持者は、自分たちが世のなかの多数派だと信じるようになります。こうした効果がどれだけあったかについて、今後の研究が期待されます。

長期トレンドから見た米大統領選挙

 最後に、今回の大統領選での投票行動をマクロ的な視点から眺めることにしましょう。図1は、1980年以降の米大統領選について、共和党と民主党の候補が獲得した票数を比較したものです(本稿を執筆した11月21日時点のデータです)。図2は、それを全投票者におけるシェアで描いたものです。

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 今回の選挙では、得票数の総計でクリントン氏がトランプ氏をわずかに上回っています。もちろん獲得した州別の選挙人数で勝敗を決めるのが米大統領選挙のルールなので、トランプ氏が選挙に勝ったという事実が覆るわけではありません。それよりもここで注目したいのは、両候補の全体的な得票数にほとんど差がないことです。これは、見方によっては2000年頃から起きている傾向だといえます。

水野誠/明治大学商学部教授

水野誠/明治大学商学部教授

明治大学商学部教授
、博士(経済学)東京大学。1980年筑波大学第一学群社会学類卒業。1985年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了。2000年東京大学大学院経済学研究科企業・市場専攻博士課程単位取得満期退学。株式会社博報堂(マーケティング局・研究開発局、1980~2003年)における勤務、筑波大学社会工学系専任講師、同大学大学院システム情報工学研究科専任講師、准教授(2003~2008年)、明治大学商学部准教授(2008~2014年)を経て現職

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