2016年3月24日、アサヒグループホールディングス(GHD)の株主総会で新体制が発足した。泉谷直木氏が会長兼最高経営責任者(CEO)、小路明善氏が社長兼最高執行責任者(COO)に就任した。
新しい経営陣は、国際事業を成長の牽引役と位置付け、M&A(合併・買収)に打って出る方針を示した。15年12月期に8.8%だった自己資本利益率(ROE)を10%以上に、1株利益は平均10%伸ばすとの目標を掲げた。
アサヒの15年12月期の海外売上高比率は13%。3~4割のキリンホールディングス(HD)やサントリーHDなどに比べて明らかに出遅れていた。泉谷氏と小路氏は二人三脚で海外でのM&Aに挑むことになる。
SABミラー傘下のビール会社を1.1兆円で買収
ビール業界では、海外で大規模な再編が進行中だ。16年10月、世界最大手のベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)による2位の英SABミラーの買収が決まり、世界のシェアの3割を握る巨人が誕生した。
これが、アサヒGHDへの“神風”となった。ABインベブがSABミラーを丸ごと買収すると、各国の独占禁止法に抵触する恐れがあるため、その回避策としてSABミラー傘下の企業の売却を進めたのだ。
アサヒGHDは16年10月、3000億円を投じ旧SABミラーの欧州ビール会社を4社買収した。そのうち、伊ペローニはイタリアでトップシェアを持つ。
続いて16年12月13日、旧SABミラーの東欧事業を買収することに合意した。買収額は8883億円。当初、買収額は5000億円程度と見られていたが、中国などと激しい争奪戦となり、買収額が跳ね上がった。17年上期に買収手続きを完了する予定だ。
買収するのはチェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの5カ国で事業を展開するビール製造会社5社と販売会社など3社の計8社。そのなかには、世界中で醸造されているビールの大半を占めるピルスナービールの元祖とされる、チェコのピルスナー・ウルケルも含まれている。
各国でのシェアは3割を超え、スロバキアを除きトップだ。8社の16年3月期の売上高は2000億円、営業利益は430億円だった。東欧・西欧事業を単純に合算すると、アサヒGHDの海外売上高比率は24%に高まる。国内市場が頭打ちになるなか、海外を強化する最後の好機と捉え、1兆円を超す投資を決断した。