シカやイノシシなどの衝突事故が全国各地で急増している。鉄道各社は、あの手この手の対策に追われている。
JR東日本八王子支社は昨年末、山梨県甲州市の山間部を走る中央線線路脇に、動物捕獲用のわなを試験的に設置した。縦4メートル、横6メートルの区画がフェンスで囲われ、動物が中に入るとセンサーで感知し入り口を閉鎖する仕組みだ。わなの中にはシカが好む鉄分を含んだ誘引材などを入れている。9月末まで捕獲を行い、効果を見定めたうえで本格設置を検討するという。
「中央線が好きだ。」のキャッチコピーを掲げる同支社の管轄は、東京多摩地区や山梨、埼玉にまたがる中央線、青梅線、八高線、五日市線、横浜線、南武線、武蔵野線。管轄内での動物衝突事故件数は2013年度に約60件だったが、14年度は約90件、15年度は約100件と増え続け、16年度も11月末現在で約90件と前年度を上回るペースだ。
昨年12月には連続衝突という珍しい事故が発生した。松本発新宿行きの上り特急「あずさ34号」が午後8時59分ごろ大月市内の笹子-初狩駅間を走行中、線路にいたシカ2頭をはねて緊急停止した。事故処理や車両点検のため現場に約26分間停車した。点検が終わり運転を再開したのも束の間、6分後には6キロ先の初狩-大月駅間で、今度は線路を横断しようとしたイノシシと衝突。再び18分間の停車を余儀なくされ、新宿駅到着は定刻よりも49分遅れとなった。最終的に上下線9本が最大49分遅れるなどし、約1200人に影響が出た。
14年には都市部の府中市内を走る武蔵野線の電車にイノシシが衝突する事故も発生している。八王子支社ではこれまで、山間部などの線路沿いに動物侵入防止フェンスを設置し、踏切にはライオンの排泄物の成分を含む薬剤を散布するなどの対策を講じてきた。それでも動物との衝突事故が減らないため、わなの設置で対策を強化することになった。
エゾシカ、ヒグマ、タヌキ、タンチョウ、オジロワシも犠牲に
北海道では、増え続ける野性動物の衝突事故で、さまざまな動物が犠牲になっている。エゾシカ、ヒグマ、牛、特別天然記念物のタンチョウや天然記念物のオジロワシまでが命を落としている。
もっとも多いのがエゾシカだ。北海道庁のエゾシカ対策課がまとめた15年度の「エゾシカが関係するJR列車支障発生状況」によると、道内全体での発生件数は2724件で、前年度比231件増となった。路線別では宗谷本線がもっとも多く515件、次いで花咲線492件、釧網本線286件となっている。