佐藤氏からは、監査委員会の見解が述べられた。
「不適切なプレッシャーと見なされうる言動は認められたものの、当社およびWH(ウエスチングハウス)の内部統制は有効に機能しており、財務諸表に影響を与えなかったと判断しております」
決算発表の2度の延期は、東芝の米原発子会社WHで内部統制に不備があったとする内部告発があり、それに調査が必要になったためである。これに関する独立監査人のレビュー結果について、佐藤氏は次のように述べた。
「独立監査人は、当社による最終的な調査結果を評価できておらず、その結果、四半期連結財務諸表の修正が必要となるか否かについて判断することができなかった、としています。一方、監査委員会としては、2016年度第3四半期以外の期で本件損失を認識すべき具体的な証拠は発見できなかったと判断しており、一連の調査は完了したものと判断しております」
ここでいう独立監査人とは、第三者のPwCあらた監査法人である。監査委員会とは東芝の組織である。調査の結果、東芝は「調査は完了、財務諸表の修正は不要」、監査法人は「最終的な調査結果は評価できないので、修正が必要かどうかわからない」と意見が分かれたことになる。
「市場の秩序」
質疑応答になると、決算発表のここまでの延期は、東芝の責任なのか、監査法人の責任なのか、と質問が飛んだ。
「それは意見の相違ということで、特にどちらかということではないと考えております」
綱川社長は、簡略に答えた。佐藤氏が続けて言う。
「今回の調査は財務数値を確定するという調査ではなくて、内部告発を端に発した調査でありますので、通常の監査と違って監査範囲とか調査の範囲、調査の期間、調査のやり方手続き等が、確立したものがないので、そのケースごとにやっていくので、その辺がやりにくかったということがあって、延長ということになったのはやむを得なかったと思うんですね。ですから、どっちの責任ということではなくて、範囲をどこまで広げるかとか、どういう手続きをやるかということで、若干の調整はあったと思います。それでズレが出たんだと思います」
上場廃止になるのではないかという質問に、綱川社長が答える。
「それにつきましては東証(東京証券取引所)さんが判断することですので、私としては控えさせていただきますけど、監査法人の結論不表明ということになった場合、東証さんの有価証券上場規程によりますと、ただちに上場廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかな場合は、上場廃止ということになりますので、私としてはそういう事態にならないように、最大の努力をしていきたいと思っています」
監査法人からの承認を得ないまま決算発表を行うという異例の事態で、市場の秩序が保てるというのだろうか。
「それは東証さんのご判断です」
それが、綱川社長の答えであった。
上場廃止か否かは、東証が頼みの綱。東芝は崖っぷちにぶら下がった状態にあることが、あからさまになった会見であった。
(文=深笛義也/ライター)